BCPという言葉を聞いたことがありますか?
最近の北朝鮮情勢を始めとした政情不安から、再びBCPに注目が集まっています。
BCPはリスクマネジメントの取り組みの一環として、インフルエンザが大流行した時期や東日本大震災が発生したころに、盛んに企業が取り組んで構築した仕組みです。
今回は、不確実性マネジメントの一環としてのBCPに着目し、BCPの一連の流れとその策定サイクルについて解説します。
大規模災害に備えた経営
東日本や九州を襲った大規模地震やそれに伴う大きな災害。
中東における地域紛争や北朝鮮を巡る政治的緊張状態。
企業は、大規模災害の発生やそのリスクに常にさらされていると言えます。
大規模災害により企業が被ると予想されるリスクは、従業員の安全が脅かされる、オフィスが停電になる、損壊により使用できなくなる、重要資産や情報データを喪失する、顧客の信頼を失う等様々です。大災害により事業は運営できなくなり、その影響は地域・社会にまで及ぶかもしれません。
企業としては、不測の事態に予め備える必要があり、ひとたび大規模災害が発生しても、事業を存続させる仕組みが必要となります。このような災害リスクに備えるものがBCPです。企業は予めBCPを整備し、有事の際にはそのBCPに沿って行動することを定めて、災害が発生しても早期に事業を復旧させる術を準備しておくことが重要です。
BCP事業継続計画とは?
BCPとは、Business Continuity Planの略称であり、一般に「事業継続計画」と呼ばれるものです。大規模災害が発生しても事業を継続させ、復旧させるための手順書です。
BCPには、3つの意義があるとされています。
事業継続
会社の存続にとって重要な業務を選別し、各種の代替手段や実行体制を準備しておくことで、非常時においても事業を継続することができます。
従業員満足度
BCPにより、従業員が安心して働くことができるようになります。
また、業務見直しや属人化の排除、手順書の整備等の改善効果も期待できます。
対外アピール
BCP策定を対外的に打ち出すことで、非常時における企業の対応力を示すことになります。最近では取引条件としてBCP策定が求められるケースもあります。
このようにBCPの意義は、事業継続にあることは勿論ですが、従業員に安心感を与え、社員の定着性の一助になるという効果もあります。
また、商品・サービスの安定供給といった良好な取引関係をアピールする狙いもあります。
社会的信頼性という意味においては、最近では、会社が上場する際に、BCPの存在がチェックされることも多いようです。実際に、東証マザーズから東証一部に切り替えるような際にも、主幹事会社より、BCPの見直し・策定を求められたといった事例もあります。
BCPが社会的信用のある会社には不可欠であると考えられるようになった証拠とも言えます。
BCPの発動から解除までの流れ
それでは、BCPの一連の流れについて解説します。
BCPは、大規模災害が発生した場合の計画書です。
BCPによれば、災害や事故等が発生した後、①初動対応、②暫定対応、③本格復旧の順で対応していくことになります。
①初動対応
災害が発生した後、直ちに行われるのが「初動対応」です。
初動対応では、BCPを発動するかどうかその判断を行うのがゴールです。
まず、従業員の安否確認をネットやツイッター等の仕組みを使って行い、対策本部を立ち上げて、被害状況の確認や関係先との連絡を取ります。
その上で予め整備しておいたBCPを発動させるかどうかの判断を行います。
②暫定対応
BCPを発動した後、次に行うのが「暫定対応」です。
暫定対応では、生活環境を確保して、目標レベルまで業務を回復させることが必要になります。
被害情報を収集するとともに、継続業務を決定して復旧させていきます。
ここで言う継続業務とは、BCPで予め選定したおいた重要業務のみを指します。
③本格復旧
暫定対応の後は、「本格復旧」へと移行します。
本格復旧では、通常業務を元のレベルまで回復させることが目標です。
復旧させる業務を選別し、業務の優先度に従い順を追って業務を復旧させていきます。
復旧に係る金額を見積り、スケジュールを作成して体系的に対応します。
通常レベルの操業度100%まで事業が回復した後、BCPは解除されることになります。
この初動から本格復旧までの一連の流れを予め計画書ないし手順書として予防的に取りまとめた文書がBCPなのです。
事前予防(BCPの策定)
事前的な予防策として、基本方針や有事の際の対策本部、重要業務を決めておきます。
そして、初動から暫定、本格復旧までの各種手順書を予め準備しておきます。
その際には、情報システム、拠点(施設・設備)、人(従業員)の3つの視点から基本方針や体制、各種手順書を検討しておかなければならないことに留意が必要です。
BCPの策定サイクル
BCPは、有事の際の初動から復旧までを予め準備しておくものです。
一般に、BCPは下記のサイクルに従い策定します。
①組織体制の構築
有事の際に自発的に動ける基準が必要になります。これが基本方針です。
基本方針の下、速やかに対策本部が立ち上がるように予め非常時の体制を決めておきます。
そのためには、予め被害を想定し、安否確認等が速やかに対応できるように仕組みを定めておきます。
②重要業務の選定
BCPが発動されて暫定対応になると、まずは重要業務を復旧させることが大命題になります。発動されて速やかに重要業務を復旧させるためにも、重要業務を予め定めておく必要があります。
重要業務は、様々な影響度等を踏まえて、ビジネスへのインパクト分析により決定します。
③手順書の作成
復旧の手順書を作成しておきます。
初動対応手順書や暫定対応手順書といった個別マニュアルを作成し、緊急連絡先や重要取引先、被害状況一覧といったチェックリストを予め用意しておきます。
④テスト訓練の実施
最後にBCPが有効に機能するかどうかテストしておく必要があります。
テスト計画を策定して、実際にテストを実行し、そこで出た気付き事項や不明点等を取り纏め、課題を洗い出します。
BCPは、有事に備えて平時にテストを繰り返して準備しておくものです。
BCPは、一度作成すれば終わりではありません。
平時に何度でもテストを繰り返し、最新かつ有効な状態に維持しておくことが望まれます。
BCPは単なる災害マニュアルではありません。
防災マニュアルと勘違いして、そのレベルに留まっている企業も少なくありませんが、従業員の安全だけでなく、事業を継続させるという大きなミッションがあります。
上場会社はもちろん、上場を目指す会社の審査の際にも必ずチェックされるほどその存在意義と重要性は高まっています。
近時の災害や政情不安を踏まえ、BCPを見直し・再策定してみてはいかがでしょうか。
まとめ
BCPの発動から解除までの流れ
①初動対応…BCPを発動するかどうかその判断を行う
②暫定対応…目標レベルまで重要業務を回復させる
③本格復旧…通常業務へ回復(操業度100%まで回復)させる
BCPの策定サイクル
①組織体制の構築…被災シナリオ検討、本部組織構築、基本方針策定
②重要業務の選定…業務の棚卸、ビジネスインパクト分析、重要業務の決定
③手順書の作成…復旧手順書作成、各チェックリスト作成、個別マニュアル作成
④テスト訓練の実施…テスト計画策定、テスト実施、対策の検討と実施
★BCPは、有事に備えて平時にテストを繰り返して、最新かつ有効な状態に維持しておく!