今回は業務プロセス統制の評価効率化に繋がるお話をしたいと思います。各事業部で概ね同じような業務を行っているのにもかかわらず、事業部ごとに3点セットが存在するケースを見かけます。
そのような会社は、それによって必要以上にサンプリングを行い、評価作業に時間がかかっているのが現状です。
今回は例えば購買プロセスにおける単価登録といった各事業部でほぼ同じような業務を行っているのにもかかわらず、それぞれの事業部で作成されている3点セットを、事業部で一つの3点セットに作り変える際のポイントを、事例を踏まえながらお話したいと思います。
3点セットを共通化する事によるメリット
最初に各事業部でほぼ同じような業務を行っているのにもかかわらず、それぞれの事業部で作成されている3点セットを、事業部共通として一つにする際にどのようなメリットがあるかお話します。
メリット①:運用状況評価のサンプリング数を削減する事ができる。
各事業部が同じような業務を行っているのにもかかわらず、3点セットがそれぞれあるとそれに紐づきコントロールを全て評価する必要があります。3点セットの統合により、コントロールの母集団が一つになり、サンプリング件数を削減する事ができます。
一つのキーコントロールにつき運用状況評価では最大25件のサンプリングを行うため、仮に4事業部あれば、25件×4=100件のサンプルが、25件になります。
メリット②:業務の流れを統一にする事ができる。
3点セットの共通化に際して、各事業部の3点セットを横並びにして、業務の流れを見てみると、なんでこの事業部だけ業務の手順が違うんだろう?とかコントロールがない事業部があるのはなぜ?といったところに目がいきます。現場へヒアリングしてみると、今まで聞かれた事がなかったので、自分の事業部だけ業務の運用が異なる事に気づかなかったと言われるケースがあります。過剰なコントロールを行う事業部があれば、コントロールを削減して、業務の流れを事業部で統一する事ができます。
このように事業部共通で一つの3点セットを作成すると、評価を効率化できるというメリットがあります。
3点セットを共通化する上での判断基準
続いて、どのような業務プロセスが事業部共通として捉えやすいか判断基準についてお話します。
事業部共通の3点セットに作り変える際に、何をもって共通と捉えるのか判断するのは悩ましいポイントです。
業務記述を削除する箇所を誤ったり、表現の集約の仕方を誤るとかえってわかりづらい3点セットになってしまいます。
あくまで一例ですが、以下のような業務プロセスは、事業部共通の3点セットに作り変えやすいと考えています。
※一つのコントロールに対してどの事業部もコントロールを実施する人の役職が同じである。
各事業部の3点セットを横並びにし、ある一つのコントロールを実施する人の役職が同じである場合は、3点セットを共通化しやすいと思います。例えば取引先登録を行う業務プロセスで取引先登録の妥当性を承認するコントロールがあった場合、そのコントロールはどの事業部も部長が行っているという事であれば、業務プロセスは一本化しやすくなります。事業部によっては、課長がコントロールを実施しているとなると、コントロールは3点セットの中に別々に記載する事になるので、3点セットを一つにした意味があまりなくなります。
そうやってコントロール一つ一つを事業部で横並びにして、役職者が概ね同じか見ていきます。
業務プロセス上の財務報告に係るリスクに対して、役職者によってコントロールの重みは異なると考えています。
以上のように各事業部で共通にしやすい業務プロセスの判断基準を認識しておく事で新しく3点セットを作成する際に、同じようなものを作成する事がなくなり、重複する作業を減らせます。
共通の3点セットを作成する際の工夫
次に事業部共通の3点セットに作り変える際、記載上どのような工夫をすればよいかについてお話したいと思います。
各事業部で概ね同じ業務を行っていて、ある一つのコントロールを実施する人の役職が事業部ごとに同じである場合、3点セットを共通化しやすいという事をお話しましたが、事業部ごとに業務の流れに多少の差異はあるので、その差異をどう捉えて3点セットに記載するか工夫が必要になります。3点セット記載上の工夫は以下の通りです。
工夫①:事業部によって業務を行う順番が違っても、3点セット上は記述を統一する。
各事業部によって資料作成や部署間の資料回付のタイミングが異なっても、その差異を3点セット上に細かく表現せず一つの業務の流れに集約します。それらの業務を行った結果最終的にコントロールで何を行うかが内部統制上のポイントなので、コントロールに至るまでの過程の記述は多少集約しても差し支えないと思います。
3点セットは現場の業務マニュアルではないので、業務手順にフォーカスするのではなく、コントロールにフォーカスして記載する事により、財務報告を誤らないためにどのようなリスクとコントロールがあるかが明確になった3点セットを作る事ができます。
工夫②:3点セット上の資料名やシステム名は総称を記載し、別紙に実際の資料名を記載する。
事業部によって業務の流れは概ね一緒であっても、作成する資料名やシステム名が異なるというケースがあります。
業務記述書の中に、事業部ごとのそれぞれ固有の資料名やシステム名を入れてしまうと、業務記述であふれかえり、本質的にどんな業務を行っているか読みづらくなります。よって業務記述書上の資料名やシステム名は総称を記載し、個々の事業部ごとの名称は、3点セット上に別紙を設けて一覧にします。
実際の資料名を一覧にしておく理由は、評価で現場の資料を収集する際に困らないようにするためです。
以上のような工夫を行う事によって、事業部共通の3点セットを作成する場合は、例え事業部の数が今後増えたとしても3点セットを一つにする事ができます。
業務プロセス統制において3点セットを共通化できた事例
最後に、各事業部でほぼ同じような業務を行っているのにもかかわらず、それぞれの事業部で作成されている3点セットを一つに作り変えた事例をお話したいと思います。以下は、一つのコントロールに対してどの事業部もコントロールを実施する人の役職が同じである事を前提として、更に工夫を重ねた事例です。
1. 購買の単価登録プロセスの事例
購買プロセスにおいて、システムに単価登録を行う業務は、どの事業部も取り扱う製品が違うにせよ、ほぼ同じことをやっているので、3点セットを一つに作り変えました。単価登録プロセスにおいて、コントロールをマスタ登録前後の承認の二つに絞れました。
単価マスタ登録プロセスで重要なのは、システムへの登録前に、見積書等の単価が記載された根拠資料と申請する単価の一致を承認するコントロール、そして単価登録後のシステムからの出力結果と根拠資料の金額の一致を承認するコントロールがある事です。業務プロセスの中でどんなコントロールが重要か、ポイントを押さえていれば、それ以外の重要性が低い業務記述やコントロールを削除し、3点セットを一つにまとめる事ができます。
2. 実地棚卸の差異報告書作成プロセスの事例
実地棚卸後にシステム上の在庫を集計し、棚卸差異数や理由を報告書にまとめるプロセスがあったのですが、一枚の差異報告書として取りまとめて経理部へ提出する事業部もあれば、在庫集計結果のリスト上で報告する事業部もありました。その際差異報告書として取りまとめて報告する業務フローに統一できました。
これによって現場で業務を見直し、差異報告書のフォーマットも事業部ごとにバラバラだったものを統一する事になりました。
以上が、複数の事業部の3点セットを共通化する際のポイントとなります。
各事業部で概ね同じような業務を行っているのにもかかわらず、それぞれの事業部で存在していた3点セットを共通化する際、どの程度の業務を「概ね」ととらえ共通化するのか判断に悩みがちです。
今回お話したポイントを基に3点セットを一本化すれば、3点セットの品質を落とす事なく、かつ効率的に内部統制の評価を行う事ができると思います。
まとめ
[3点セットを共通化する事によるメリット]
メリット①:運用状況評価のサンプリング数を削減する事ができる。
メリット②:業務の流れを統一する事ができる。
[3点セットを共通化する上での判断基準]
※一つのコントロールに対してどの事業部もコントロールを実施する人の役職が同じである。
[共通の3点セットを作成する際の工夫]
工夫①:事業部によって業務を行う順番が違っても、3点セット上は記述を統一する。
工夫②:3点セット上の資料名やシステム名は総称を記載し、別紙に実際の資料名を記載する。
[業務プロセス統制において3点セットを共通化できた事例]
1. 購買の単価登録プロセス
コントロールをマスタ登録前後の承認の二つに絞れた。
2. 実地棚卸の差異報告書作成プロセスの事例
差異報告書として取りまとめて報告する業務フローに統一できた。