現在RPAの導入率は、年商1,000億円以上の大企業では50%以上、中小企業では25%以上と言われており、2017年当時では全体で14%程度だったことから考えると、かなり普及が進んでいると捉えることができます。
このように企業におけるRPAの実務利用は一般的となりつつありますが、当初に導入した業務範囲から広がらず、利用は社内の一部業務に留まっているという企業も少なくありません。今回はその状況に陥ってしまういくつかの理由と、対応策について考えていきたいと思います。
RPA導入後に困ること
①設定したRPAが止まる
②RPAが誤った動作をする
③社内でRPAのメンテナンスができない
④RPAの利用が社内で進まない
【①設定したRPAが止まる】
導入時には動作テストもクリアして順調に動いたかに見えたRPAでも、実際の業務では急に止まってしまうことが往々にして発生します。その理由の大半はRPAが動作するPCの環境変化で、RPAが動かす対象とする業務システムの利用画面が変わってしまうと認識ができなくなり、処理が中断してしまうことがあります。他の原因としては、Excelのデータを読み取ってシステムに転記させるような複数の処理を順に実施させていく際、Excelやシステムが動作遅延を起こすとRPAの処理が追い越してしまい、処理が継続できずにエラーとなってしまうこともありますし、Windows Update等のイレギュラーな処理が途中に割り込むと、RPAの動作が止まってしまう事態もあり得ます。
【②RPAが誤った動作をする】
RPAを適用した業務に複数の条件分岐が存在し、一部分の設定が抜けてしまうと予期しない動作によってうまく処理されないことがあります。導入時に条件の洗い出しを行い、充分だと思われていても実は網羅できておらず、実践の場で間違った動作をしてしまい、気がついた時には後続の業務に大きな影響を及ぼしてしまっていたというケースも発生します。導入時のテストを検討する際、業務のパターンを把握できていなかったり、イレギュラーケースやエラーを検知する動作を入れていないと、正しい動きのできないRPAが生まれる原因となります。
【③社内でRPAのメンテナンスができない】
RPA導入時にベンダーやコンサルティング会社が主体で設定を行った場合にありがちですが、社内にRPAの設定方法を充分に理解できている社員がおらず、RPAが止まった時や誤動作を起こした際にメンテナンスをすることが難しく、対応に困るケースが存在します。導入時や導入後すぐには関係する社員向けにRPA設定の教育を行うことが一般的ですが、不十分であるとRPAの設定内容を読み解くことができず、エラーを回避する調整を施すことも難しくなります。
【④RPAの利用が社内で進まない】
RPAを設定するための業務パターン想定が網羅的で、設定も充分にできており、運用開始後にエラーが起きることもなく順調に活用ができていたとしても、RPAそのものが社内に浸透せず、使い道が広がらないために費用対効果を得られず、進め方に困るというパターンも存在します。未導入の部門に向けてRPAの効果を説明して利用を促しても、RPAの有用性がうまく伝わらず、あまり盛り上がらずにいるという企業も少なくありません。
RPA運用に向けて考えておくべきこと
導入後に困るケース4つの内、①~③はRPAに関する社内の技術力を上げていければ、徐々に改善していくことは可能です。RPA担当者のスキルが向上して、よくあるエラーの解決方法を身につけることができれば、メンテナンスにかける労力を減らしていくことができるようになります。
しかし、④の「RPAの利用が社内で進まない」という問題は、スキルを上げるだけでは解決できません。RPAに限りませんが、新しいITツールを導入した時、社員には期待と同時に不安が付きまといます。一定数の社員は「設定が難しそうだ」・「業務の一部分だけ自動化しても仕方ない」・「作成後のメンテナンスは誰がやるのか」・「管理が面倒そうだ」と感じています。
社員がその心理的なハードルを乗り越えていけないと浸透させることは難しくなりますので、導入する企業ではRPAを運用する前に考えて整備しておかなければならないことがいくつかあります。例えば、RPAを運用する体制・ロボット作成教育のコンテンツ・運用する上での取り決めをまとめた社内ルールです。
とりわけ大切だと考えられるのが社内ルールです。企業のRPA推進担当者が社内に向けて、我が社にもRPAを導入したので、後はたくさんのアイデアを出して自由に業務効率化を進めてくれと言っても、任される側の社員はどのようにして良いのかわかりませんし、下手に進めると通常業務に加えて負担が増えるように見え、消極的な反応しか示しません。一部の勇気ある社員が手を挙げて計画をしたとしても、RPAを利用するためのガイドラインや社内ルールが整備されていなければ、いつの間にか立ち消えてしまうことになってしまいます。
RPAの運用ルール例
せっかく時間をかけて導入したRPAを有効活用するためには、社内ルールの整備が不可欠ですが、どのような内容にするべきでしょうか。それはもちろん企業の状況や事情により異なりますが、運用がうまく進められている企業では概ね、以下のような項目に関して内容を定めている傾向があります。
・ロボット作成の申請方法
⇒ロボットに任せたい業務の内容を伝え、ロボット作成を申請するための連絡フォーマット等
・ロボットを作成する社員の資格
⇒社員のロボット作成スキルを表す社内資格の制定等
・ロボット作成のスキルアップ方法
⇒ロボット作成資格を得るための教育コンテンツの受講要領等
・運用上でトラブルが発生した場合の対応方法
⇒自部門での解決が困難なトラブルが発生した場合のエスカレーション先等
これらの社内ルールを明確にしておくことにより、社員の心理的負担を下げ、参画しやすい雰囲気を作るのが、RPAを社内に浸透させるコツであると言えます。
社員にRPAを使ってもらうための仕掛け
社内ルールを整備してもいまいち盛り上がりに欠ける場合は、利用を促進するための企画を実施するのも一手です。例えば、RPAを利用した業務改善の事例を表彰したり、等級のある社内資格を制定して評価へ反映させる等、RPAの習熟に対する社員のモチベーションを上げる制度を作っている企業もあります。
また社内ルール整備と合わせて、自社にとって効果的と思える手法を他社に倣うのは良い方法だと思います。うまくRPAを利用している企業では、社員を教育する→自動化できる業務を探す→RPAを適用する→社員を賞賛する、というサイクルを仕組化していることが多いため、そのような取り組みをすることが、RPA導入の効果を得る近道であると感じます。
まとめ
・RPA導入後に困ること
☑RPAの運用を開始してから困るケースには次のようなものがある。
①設定したRPAが止まる
⇒PCの環境変化が主な原因となる。
②RPAが誤った動作をする
⇒条件分岐の設定が不十分な場合に予期せぬ動きをすることがある。
③社内でRPAのメンテナンスができない
⇒自社内にRPAの設定方法を理解している社員がいないと、メンテナンスができない。
④RPAの利用が社内で進まない
⇒順調に稼働したとしても、RPAの有用性が理解されず、広がらない。
・RPA運用に向けて考えておくべきこと
☑困るケースの①~③は社内の技術力を上げることで改善することはできる。
☑④は新しいITツールに対する社員の心理的ハードルが課題になる。
☑心理的なハードルを無くすためには、事前にRPAの運用体制や教育コンテンツの用意等が必要になる。
・RPAの運用ルール例
☑ロボット作成の申請方法
⇒ロボットに任せたい業務の内容を伝え、ロボット作成を申請するための連絡フォーマット等
☑ロボットを作成する社員の資格
⇒社員のロボット作成スキルを表す社内資格の制定等
☑ロボット作成のスキルアップ方法
⇒ロボット作成資格を得るための教育コンテンツの受講要領等
☑運用上でトラブルが発生した場合の対応方法
⇒自部門での解決が困難なトラブルが発生した場合のエスカレーション先等
・社員にRPAを使ってもらうための仕掛け
☑社内ルールを整備しても盛り上がらない場合は、利用促進の企画を実施するのも有効である。
⇒業務改善事例を表彰したり、社員評価に社内資格を反映させる等