内部監査への関心の高まりを受けて、内部監査部門を増員しようという動きが進んでいますが、いざ人を増やそうとしてもどういう人材が内部監査にマッチするのか悩むことも多いのででないでしょうか。内部監査という仕事の内容から、経験値が浅い“若手”社員ではなく、経験ある“ベテラン”社員を配置することが多いようです。ただ、そもそも内部監査を実施する「内部監査人」に対して、「どういった資質や経験・スキルが必要なのか?」を考えて、人員配置を考える企業は少なく、「とりあえず会社をよく知っているベテラン社員だから」で選んでいるのが実情です。
今回は、内部監査人の資質・経験・スキルといった内部監査の主体要件を考えてみたいと思います。
内部監査人に対するよくある誤解?
内部監査は、会社(店舗や部門、子会社まで)を横断的にモニタリングするものであり、このことから会社の業務に精通し、法務や経理、IT、人事まで深い知識が要求されると考える人が多いようです。実際に、営業部門から購買部門といったフロントの部門から経理や人事、情報システムといったバックオフィスの管理部門まで、内部監査の対象になります。このため、全ての部門の業務に精通した人が内部監査人として適任と考えてしまうのも無理はありません。しかしながら、内部監査とは、業務の適否を判断するのではなく、業務がルール(規程等)に従って行われているかを確認するものになります。「ルールがあるか」「ルール通りに仕事をしているか」を確認するのであって、「その仕事の内容や進め方が正しいのか?」を判断するものではありません。ここに誤解があると、必要以上に内部監査人のハードルを上げてしまうことになります。内部監査人に必要なのは、ルールの中に管理や統制の仕組みがあるか、その仕組みが有効に機能しているかを判断できることなのです。
内部監査を担うにあたり、業務知識や専門能力は、必ずしも深いものである必要はありません。業務や経理、法務、IT等に対する深い知識より、内部統制(作業分離や承認等の相互牽制)や監査(質問・査察等)に関する知識やスキルの方が優先されます。
内部監査人に求められる資質とは
内部監査には、必ずしも深い業務知識や長年の実務経験は必要ではありません。内部監査には、知識や経験に優先して求められる「内部監査人としての資質」があります。その内部監査人としての資質、内部監査人に求めらる第一の条件として、「独立性」と「職業的猜疑心」の2つがあります。
資質❶:独立性
『監査対象(子会社や部門・店舗等)との馴れ合いを禁じ、利害関係がなく、独立した第三者の立場で監査を実施していく公正不偏の態度が要求される』
内部監査が信頼されるものであるためには、客観的な立場で実施したものでなければなりません。“自己監査は監査にあらず”といった言葉があるように、身内が監査したものは信頼性に欠けます。内部監査が信頼されるものであるためには、まず内部監査人自身が信頼される存在でなければならず、それを担保するものが「独立性」になります。
資質❷:職業的懐疑心
『客観的・具体的な根拠がないまま現状を「良し」とはしない毅然とした態度が重要であり、相手の言うことを鵜呑みにしない姿勢が必要である』
内部監査が信頼されるものであるためには、客観的な証拠に基づくものでなければなりません。第三者から見ても納得できる結果を導き出すためには、信頼性のある証拠がなければなりません。内部監査人は、常に“疑わしい”という気持ちを持って、客観的な帳票や具体的な証言を持って、結果を判断できる人材でなければなりません。
内部監査人の資質として、「独立性」と「職業的猜疑心」は非常に重要です。いくら深い専門知識があっても、いくら長年の実務経験があっても、監査対象と馴れ合い、主観的な判断でしかない監査であっては信頼されません。内部監査が信頼されるものであるためには、まず独立性と職業的猜疑心を確保することが大事なのです。
内部監査人に求められる知識やスキルとは
業務知識やITや経理・法務等の専門知識が乏しくても、充分に内部監査を担うことができます。内部監査に求められる専門知識は、内部統制に対する深い知識であり、必要とされるスキルは、監査技術や会話・文章力といったソフトスキルです。
知識・スキル❶:内部統制知識
『内部監査においても、内部統制の仕組み(6つの基本的要素や権限分離、承認といった業務プロセス統制、IT全般統制等)に対する深い知識が要求される』
内部監査は、ルールの中に統制の仕組みがあるか、統制の仕組みが有効に機能しているのかを確認することです。
業務の成果や進め方の適否を判断するものではありません。承認等の仕組みがルールに明文化されていて、実際にルール通りに運用されていることを確認するためには、内部統制の深い専門知識が求められます。
知識・スキル❷:監査技術
『監査の定義や役割を正しく理解し、予備調査から監査報告までの一連のプロセスを習得する等、監査手続
・技術の取得・習熟・向上に努める必要がある』
内部監査人は、監査とは何なのか、監査人の役割、監査のプロセス・進め方を正しく理解していなければなりません。
また、監査の目的を達成するために適用する監査手続・技術に精通している必要があります。目的を達成するためにどの資料を閲覧するのか、何を観察すべきなのか、どうやって質問するのか等の技術を習得しなければなりません。
知識・スキル❸:会話・文章力
『監査対象との会話力や監査報告書等における文章力が求められる。「引き出す」能力と「伝える」能力の双方が必要であり、コミュニケーション力が重要となる』
内部監査には、いわゆる“ソフトスキル”が強く求められます。内部監査の多くの局面において、人と会話して、相手の意見を引き出す、あるいは質問の意図を正しく伝えるといったスキルが求められます。また、報告書等の書類を通じて、監査の結果を報告していきますので、相当な文章力も備わっていなければならないのです。
内部監査は、管理・統制の仕組みがあるか、その仕組みが実際に運用されているかを確認するものです。内部統制に対する深い専門知識が求められ、加えて、閲覧や観察、質問といった監査手続・技術に精通し、監査結果を的確に表現するための会話・文書力といったソフトスキルも求められます。
内部監査人として働くために…
ここまで、内部監査にはITや経理・法務等の高度な専門知識や業務経験は必要ないと話をしてきました。勿論、専門知識や業務経験がマイナスに作用する訳ではありません。むしろ、そのような知識や経験は、内部監査にプラスに働く局面もあるでしょう。ただ、今回問題にしたいのは、専門知識や業務経験を強く求める余りに、内部監査人のハードルを必要以上に引き上げて、結局、内部監査人の成り手がいないという事態に陥ってしまうことです。内部監査部門は、どの会社でも人手不足です。少ない人的リソースの中で内部監査の強化が求められていますが、監査の対象や監査項目は増加する一方です。このような状況の下、効果的に内部監査を実施するためには、必要以上に内部監査人のハードルを上げるのではなく、内部監査人に必要な資質と知識・スキルを明確にすることが必要です。
内部監査は“ベテラン”社員による経験者でないと実施できないものではありません。内部監査の定義・目的を明確にし、監査項目や監査チェックリスト等を体系化することにより、経験値の少ない“若手”でも十分に担えるものなのです。
内部監査が信頼されるものであるためには、監査の品質を一定(監査の役割および期待に応える品質水準)にしなければならず、内部監査に携わる者の主体要件(資質・知識・スキル等の条件)を明確にしておく必要があります。今一度、内部監査とは何かから考えて、内部監査の主体要件を考えてみてはどうでしょうか。
まとめ
内部監査人に対するよくある誤解?
☒ 会社や部門の全て業務に精通した人が適任である。
☒ 法務や経理、IT、人事まで深い知識が要求される。
内部監査は、管理や統制の仕組みがあるか、その仕組みが有効に機能しているかを判断すること
★必ずしも、内部監査人に深い業務知識や経理・IT等の高度な専門能力は必要ではない。
内部監査人に求められる資質とは
資質❶:独立性…監査対象から独立した第三者の立場
資質❷:職業的懐疑心…監査対象への毅然とした態度
★内部監査が信頼されるものであるためには、独立性と職業的猜疑心の確保が重要である。
内部監査人に求められる知識やスキルとは
知識・スキル❶:内部統制知識…6つの基本的要素、業務プロセス統制、IT全般統制等
知識・スキル❷:監査技術…予備調査から監査報告までの監査プロセスや監査手続
知識・スキル❸:会話・文章力…コミュニケーション力(「引き出す」能力と「伝える」能力)
★内部監査の実施には、内部統制と監査技術に精通し、コミュニケーション力が求められる。
内部監査人として働くために…
専門知識や業務経験を強く求める余り、内部監査人の成り手がいないのが現状である。
経験値の少ない“若手”でも担当できるように、内部監査を体系化する必要がある。
★内部監査の主体要件(資質・知識・スキル等の条件)を明確にしておく必要がある。