内部監査部門を強化する企業が増えてきています。断続的に発生する企業不祥事を受けて、内部監査を強化する傾向が多く見られますが、この傾向は上場会社だけに留まりません。J-SOXや内部監査のセミナーを開催すると、半数近くの参加者が非上場会社の担当者の方であり、特に内部監査に限定すれば、7割近くの方が非上場会社の方であるケースも珍しくありません。
今回は、内部監査の性質や種類を紹介するとともに、内部監査の難しさについて考えてみたいと思います。
内部監査の性質
内部監査は、経営目的を達成するために企業内の一部署が自発的に実施する内部的なものです。
内部監査は、「内部的なもの」ですから、公認会計士等が法律に基づき実施する外部監査とは異なります。公認会計士等が行う外部監査は法定監査ですので、一定条件を満たせば、法律の下に監査が強制されるものになります。例えば、財務諸表監査では、上場企業に強制されることになります。企業内部の者ではなく、企業とは利害関係を有さない第三者によって監査が行われます。
また、内部監査は「経営目的を達成するために」実施されるものになりますので、範囲に制限がありません。法律で強制される財務諸表監査は、会計のエリアに限定されます。すなわち、企業の公表する財務諸表が一般に公正妥当と認められる会計基準に準拠して作成されているかを保証するための監査です。一方、内部監査にはそういった範囲の制限はなく、企業活動の全てが対象になります。企業の活動が法律や内規等の規準に準拠して行われているかを監査するものになります。
内部監査は、上場・非上場に関係なく実施されるべきものです。範囲に制限はなく、「自発的に」実施するものですから、内部監査の実施は任意です。内部監査の要否も含めて、その範囲や進め方も全て企業で判断しなければなりません。
この意味で、内部監査は非常にハードルが高いものと言えます。
内部監査の種類~任意監査・定期監査
内部監査は、法律等で決められたものではなく、その要否から実施内容まで企業の判断で決めることができます。
とは言え、内部監査は、企業実務の中に定着してきた経緯もあり、すでに様々な種類の内部監査が実施されています。
■任意監査
内部監査は、法律で強制されるものではなく、企業が自発的に実施する任意監査であることから、監査の要否から種類・内容、実施時期まで企業が決めることができます。このことが内部監査を難しくさせる一因になります。法定監査であれば、監査の範囲から主体、内容、進め方、実施時期が決められていますが、内部監査はそうではありません。
任意監査としての内部監査は、監査の範囲から内容、進め方、時期を企業が決めなければならないのです。
■定期監査
内部監査は、実行計画に基づき、実施時期を定めて繰り返し毎年行う監査になります。内部監査は、企業の活動が規準に従い運用されているか保証するものであり、不備があれば改善し、改善した結果を再び監査するという循環的に実施されるものです。繰り返し実施することで企業の管理精度を引き上げることが可能になります。定期監査のほか特定目的のために行う抜き打ち監査もありますが、内部監査の基本は定期監査になります。
内部監査は、任意監査ではありますが、企業の管理精度を監視し、一定レベルに引き上げるための有効な手段になります。定期的に内部監査を実施することで、正確な企業活動を保証し、効果的なものにすることができます。
内部監査の種類~拠点監査・テーマ別監査
内部監査は、企業活動を効果的に実施するため、社内にルールを設けて、そのルール通りに業務を遂行しているか確認するものです。ここで言う「社内」とは、企業集団を含めた組織のことを指しており、国内並びに海外の子会社、部門、工場、支店、店舗、出張所といった組織になります。この組織を「拠点」と表現しています。また、ここで言う「ルール」とは、規程類や手順書等の業務を遂行する上での決まり事であり、法律等もルールに含まれます。内部監査は、企業内の組織を対象に行う拠点監査であり、特定のルールに着目して行うテーマ別監査といったものもあります。
■拠点監査
拠点監査とは、子会社や部門・工場・支店・営業所・店舗といった拠点に対する監査であり、海外拠点を持つ企業の場合には、国内のほか海外監査まで実施することもあります。内部監査は、企業集団内の全ての組織が対象になります。
全ての組織を対象に定期的に監査をしなければなりません。当然、一年で全ての対象を監査できる訳ではなく、内部監査が難しいと言われる所以は、この監査対象の広さ・多さです。
■テーマ別監査
テーマ別監査は、特定のテーマを設けて重点的に拠点の監査を実施するものであり、例えば、個人情報保護法の改正やBCP(事業継続計画)、働き方改革等に伴い実施される監査を言います。一口にテーマと言っても、監査すべきテーマは膨大な数に上ります。自社の置かれた環境・業種・規模に応じて、数百から数千ものテーマになります。その中で今の時代に合わせて、監査テーマを選択するのは至難の業です。この点でも内部監査は非常に難しいものです。
内部監査は、全ての拠点を対象にして、定期的にローテーションを組んで実施する必要があります。また、その時々の企業の実状に合わせて監査テーマを選択して、監査を計画・実施しなければなりません。
内部監査の種類~経営監査
内部監査は、監査対象において規程等のルールが存在するか、その規程類に準拠して業務を遂行しているか、利害関係者(会社)に対して保証するものです。内部監査の特質は、「規準の存在」と「業務の準拠性(規程類への準拠性)」をチェックすることにあります。
しかしながら、最後に紹介する経営監査は、この内部監査の特質とは異なるものです。大企業の中には、内部監査部門のミッションとして、経営監査を掲げている会社も少なくないようです。
■経営監査
経営監査とは、経営の効率性や業績、成果を保証し、指導する活動を言います。例えば、海外投資や新規事業投資におけるリスク評価等の管理業務が該当します。内部監査の一機能には「リスク評価」というものがあり、このリスク評価の機能に着目して、それを経営活動に活かそうという発想の下で行われるものが経営監査です。様々な投資をする際、当然ながらリスクを評価することは、経営上とても大事な行為です。しかしながら、拠点監査やテーマ別監査といった内部監査の特質に従って実施されるものとは明らかに異質な活動であることは否めません。
経営監査の内容は、企業にとって非常に重要なものです。しかしながら経営監査の主体が内部監査部門であるかと言うと、それは違和感を覚えざるを得ません。内部監査の特質とは異なる経営監査は、内部監査部門が主体で実施すべきものではなく、経営企画等の他の専門部署が実施すべきものと考えます。
内部監査は難しい!?~自社に合った内部監査の実施
内部監査は任意であるため、その定義や種類・目的を一律に決めるのは難しいです。企業の実状や内部監査のポジションによって、内部監査の性質や目的・内容は変わります。このことから、内部監査は、広範囲かつ高難度な対応が必要になることもあります。
これから内部監査部門を設置・強化していこうという企業であれば、まず拠点監査を実施して、当面はその充実を図るべきです。そして、子会社や部門の管理精度がある程度引き上げられたタイミングで、テーマ別監査へ移行し、特定の視点ないし管理軸で”深く”監査を実施していくべきです。
内部監査は単発で終わるものではありません。経営管理に有効である監査であるためには、拠点監査とテーマ別監査を繰り返し・定期的に実施して意味があります。定期監査である内部監査が効果を発揮します。
自社の実状を分析し、自社の「内部監査ポジション」を把握して、自社に合った内部監査を実施してはどうでしょうか。
まとめ
内部監査の性質
内部監査は、経営目的を達成するために企業内の一部署が自発的に実施する内部的なものである。
‣内部監査の要否も含めて、その範囲や進め方も全て企業で判断しなければならない。
‣内部監査は非常にハードルが高いものと言える。
内部監査の種類~任意監査・定期監査
■任意監査…法律で強制されるものではなく、企業が自発的に実施するもの
■定期監査…実行計画に基づき、実施時期を定めて繰り返し毎年行うもの
★定期的に内部監査を実施することで、企業活動を効果的なものにすることができる。
内部監査の種類~拠点監査・テーマ別監査
■拠点監査…子会社や部門・工場・支店・営業所・店舗といった拠点に対するもの
■テーマ別監査…特定のテーマを設けて重点的に拠点の監査を実施するもの
★全ての拠点を対象にして、定期的にローテーションをして監査を実施する必要がある。
★企業の実状に合わせて監査テーマを選択して、監査を計画・実施する。
内部監査の種類~経営監査
■経営監査…経営の効率性や業績、成果を保証し、指導する活動
★経営監査の内容は、企業にとって非常に重要なものであるが、内部監査とは異質のものである。
内部監査は難しい!?~自社に合った内部監査の実施
内部監査は任意であるため、その定義や種類・目的を一律に決めるのは難しい。
★自社の「内部監査ポジション」を把握して、自社に合った内部監査を実施すべきである。