働き方改革の一環として注目を集めているRPAですが、
「RPAを導入することで、現場担当者の仕事がなくなってしまうのではないか?」
「RPAを導入後、業務を担当していた人を辞めさせる事はできないし、どうするのか?」
といった声を聞くことがあります。『RPAの導入により、人の仕事が奪われてしまう』といった意見です。
一方で、最近では「RPAの導入の進め方がうまくいかない」、「PoC段階で効果が出ない」といった形で、RPAの導入がうまくいかず、本格導入を見送るといった企業もあるようです。
RPAが注目されてから数年が経ち、未だにメディアで特集を組まれるなど、依然として関心は高いようですが、実際のところはどうなのでしょうか。
今回は、RPAが人の仕事を奪うような存在になり得るのか考えてみたいと思います。
RPAの役割
まず初めに、そもそものRPAの役割を考えてみましょう。
RPA(Robotic Process Automation)は、日本では2016年ごろから普及が始まり、日本の労働人口減少を補うために非常に注目されてきました。
現在では多くの企業に導入され、今後も導入拡大が見込まれていますが、安易に“RPAを導入すれば業務自動化ができる”“コスト削減ができる”といった考え方を持ち、導入に踏み切ってしまうと、思ったより業務効率化につながらなかったという結果になることもあります。
RPAの役割を見誤り、RPAが面倒な業務は何でもお願いできる優秀なものだと考えてしまうと、良い結果に結びつきません。
RPAに期待できる業務は限定的で、例えば、「システムからデータをダウンロードして、ツールでグラフを作成し、メールを送信する」といった業務や、「リストを読み込み、指定Webフォームより発注の登録を行う」といった業務、「定期的にWebサイトにアクセスし、必要なデータをダウンロードする」といった作業などが挙げられます。
RPAは、パソコン上の単純作業や繰り返し作業を人間に代わって行うことができます。
RPAの役割は、あくまでも「一定のルールで行われる定型作業(パソコン作業)の自動化」になります。
この意味では、RPAは人の仕事を奪う存在であると言えます。RPAが導入されることで、それまで人が行っていた「一定のルールで行われる定型作業(パソコン作業)」から解放されるのですから、RPAが人の仕事を奪うというのは事実です。
しかしながら、単純作業や繰り返し作業に従事している人の全ての仕事を奪ってしまうかと言うと、それは違います。
RPAの導入により、人の仕事が奪われる?
RPAに代替される業務は、「一定のルールで行われる定型作業(パソコン作業)」です。
「一定のルールで行われる定型作業」が業務の多くを占めるという人は注意が必要ですが、定型作業の全てをRPAに任せられるというのではありません。RPAは、あくまでも“一定のルールで行われる”というのが前提条件になります。言い換えれば、人の判断が伴う作業は、RPAで代用することができません。
データをRPAで自動的にダウンロードしても、そのデータが正しいかどうかを人が確認する必要があります。またExcelのデータを基幹システムに自動的にアップロードできたとしても、正しくシステムに登録されているかどうかは、人が確認しなければなりません。定型作業に多く係る人の全ての仕事をRPAが奪うことはできません。
RPAができる作業と人が判断しなければならない作業を上手く組み立てて、業務プロセスを設計する必要があります。
確かに、RPAが定型作業に携わる人の仕事の一部を奪うのは事実です。しかしながら、そのような事態になったとしても、その“奪われて”空いた時間は、付加価値の高い業務に充てることで解決できます。
例えば、人事部では、優秀な人材を採用する為の取り組みを検討する時間や、優秀な人材を育てる為の教育・研修プランを検討する時間。
総務部であれば、社員の士気を高めたり、満足度を上げる為の、オフィス環境の整備を考える時間、福利厚生を考える時間、社内行事を考える時間、社内広報を考える時間。
営業部であれば、お客様へのアプローチ方法を考える時間、提案書を考える時間、見積を検討する時間。
そういった時間の使い方に人間が行うべき業務としてシフトさせていくことで解決が見込めます。
「一定のルールで行われる定型作業」が業務の大半を占める人でも、確認やチェック作業は必ず残ります。
完全にRPAに仕事を奪われるという事はありません。
RPAを活用して業務を行うことにより、付加価値の高い業務へシフトさせていくことが可能になります。
そのために、別途、教育や人材育成が必要になるかもしれませんが、人間が行うべき業務をより付加価値の高い(人間でないとできない)業務へシフトさせていく機会やきっかけをRPAは提供してくれます。
RPAの導入が上手くいかないケース
人の仕事を奪ってしまうのではないかと懸念されているRPAですが、一方で、最近ではRPAの導入が上手くいかないという声もよく聞きます。
例えば、現場とのコミュニケーション不足により、情報収集の段階やPoC(効果検証)・導入のタイミングで、「自分達の仕事を奪われてしまうのではないか」といった現場の反発を招いてしまい、現場の強い抵抗からRPAの導入に繋がらないという失敗例を聞くこともあります。
これは“自動化”というRPAの特長だけをアピールし過ぎて、現場に寄り添って丁寧に説明しないことが原因です。
RPAだけでは業務が完結せず、RPAを道具として上手く活用しつつ、人でしか出来ない作業(確認やチェック作業)を現場に説明することで、現場の抵抗を和らげることができるはずです。またRPAによって発生する“空いた時間”で、付加価値の高い業務へシフトしてもらうことを併せて説明すれば、現場を安心させることもできます。
RPAは現場の協力がなければ、導入できません。情報システム部門が主体となり、RPAのロボットを開発し、現場へRPAを配布して利用させていくといった方法をとる場合でも、必ず、事前に現場部門へ丁寧な説明を行い、理解を得ながら進めていく必要があります。
RPAの役割は、「一定のルールで行われる定型作業(パソコン作業)の自動化」になります。
RPAを導入して定型作業を自動化させていくためには、定型作業を熟知している現場の担当者の協力が不可欠であり、“RPAが人の仕事を奪うのではないか”との不安を一掃し、現場の抵抗を排除するのもRPAを上手く導入するために非常に重要なことです。RPAの適用業務や費用対効果だけに意識が向かいがちですが、いくら適用業務を見つけても、費用対効果が見込めたとしても、現場の協力がなければ、RPAの導入は上手くいかないのです。
RPAにより人の仕事が奪われることはない
RPAの普及が日本で広まってから数年、現在では幅広い業界での成功例がでています。
金融業は、顧客のお金を扱う仕事となるため間違いが許されず、且つ、定型業務が多く存在するため、RPA導入の効果が出やすい業界といえるのでしょう。また、最近では、自治体などでも効果をだしているようです。
例えば、茨城県庁では、検収資料確認業務にRPAを使用した所、80%の業務削減をしたという事例もあります。
また、部署ないし職種別に見ても、RPAの適用範囲は広がりを見せています。人事部門では、採用データの集計や、定型文のメール送信、社内の異動、退職情報の更新など、定型の業務が多く、RPAに向いている業務が多いようです。
経理部門も同様に、データ集計、入力など、定型業務が多いため、RPAに向いている業務が多いです。
RPAで効果の期待できる業務は、「一定のルールで行われる定型作業」になります。また、「同じような業務が大量に発生する」、「日々頻繁に発生する」、「人の判断が必要ない」エリアでRPAは効果を発揮します。
RPAを導入してもRPAに完全に業務を奪われてしまうということはありません。
「一定のルールで行われる定型作業」を単純に繰り返すような業務を行っていた人でも、確認作業は人の手が必要になります。AIとは異なり、学習機能もないRPAでは、一つの業務を最初から最後まで100%任せてしまうというのは難しいです。
RPAの得意とする分野は限定的であり、RPAにより、人の仕事が奪われることはありません。
現場の協力が得られずに上手くRPAの導入が進まないとお悩みの企業は、今一度、現場とのコミュニケーションを密にして、「RPAは人の仕事を奪うものではない」ことをアピールしてみてはどうでしょうか?
きっとRPAの導入に進展があるはずです。
まとめ
・RPAの役割
RPAの役割は、「一定のルールで行われる定型作業(パソコン作業)の自動化」である。
・RPAの導入により、人の仕事が奪われる?
「一定のルールで行われる定型作業」でも確認やチェック作業は必ず残る。
RPAができる作業と人が判断しなければならない作業を業務プロセスとして設計する必要がある。
・RPAの導入が上手くいかないケース
現場の強い抵抗からRPAの導入に繋がらないという失敗例がある。
“RPAが人の仕事を奪うのではないか”との不安を一掃することが、RPA導入で非常に重要である。
・RPAにより人の仕事が奪われることはない
学習機能のないRPAでは、一つの業務を最初から最後まで100%任せてしまうのは難しい。
RPAの得意とする分野は限定的であり、RPAにより、人の仕事が全て奪われることはない。