3月決算の会社様の多くは、7月から8月にかけて、整備状況評価(ウォークスルー)評価を実施されたことと思います。
整備状況評価では、取引の開始から財務諸表に反映されるまでの業務処理の過程を追跡し、業務プロセス文書の記載が実際の業務を反映していることを確認します。
更に、一般コントロールを含む全てのコントロールに対し、設定したコントロールが意図された通りに機能していることを評価していきます。
今回は、販売プロセスを例に、整備状況評価として見るべきポイントとともに、指摘・発見事項となった事例をご紹介します。
事例①~受注業務の整備状況評価~
業務プロセス統制の文書化では、大きくは販売プロセスと購買プロセスに分けられ、さらに、販売プロセスであれば、受注業務、出荷業務、請求業務、入金管理業務、売上計上業務等のサブプロセスに区分されます。
整備状況評価においても、サブプロセスごとに評価すべきポイントが異なり、キーとなる証憑、その後の是正措置、不備が発見された場合のインパクトも異なります。
事例①では、受注業務の整備状況評価で確認すべきポイント、整備不備の発見、指摘事項となった事例についてご紹介します。
受注業務プロセスでは、取引先との契約締結から受注登録までの一連の流れを評価します。
ここで過去に何度か発覚し、指摘事項となったケースに「契約日のバックデイト」があります。
実際にヒアリングをすると、その多くは相手先からの要望や、急を要するものであり、決裁者である部長が出張であったので押印申請が間に合わなかった等、やむを得ない状況であったという内容が多く聞かれます。
契約締結のプロセスで重要となるのは、決裁者は誰か、契約書の作成を誤るリスクは無いか、虚偽の契約書が作成される仕組みが無いかどうかです。
契約書は、会社間の重要な約束事となるものです。契約通りに実行しないことは、それがやむを得ない状況であったとしても、「契約違反」となります。
契約書の不備が財務諸表の重要な虚偽表示リスクに直接起因すること、或いはバックデイトが原因でトラブルに発展するケースは多くはないかも知れません。
しかし、業務プロセス文書の記載が実際の業務を反映していないことになりますので、内部統制の整備上の不備として指摘をされることは十分に考えられます。
事例②~請求業務の整備状況評価~
事例②は、請求業務の整備状況評価で指摘事項となった事例です。
内部統制の評価にあたり、登場する機会が多い代表的な証憑として、請求書があります。
入金や支払いの根拠となる資料は、保管されていて当然なのですが、確認した証跡をどこまで、どのような形で残すかは大きな課題であり、物の納品が無いサービス等の提供においては、特に問題となります。
例えば、インターネット広告です。
特に近年は、メディアの多様化、アドテクノロジーの進化により、企業のマーケティング活動や広告宣伝に、インターネット広告を活用するケースが増加しています。
整備状況評価では、「請求書が適切であることを確認する」というコントロールに対し、担当者にヒアリングを実施し、実際の証憑を用いて評価します。
すると、実在性については「受注書」で確認できるものの、金額の正確性については、媒体からの「掲載レポート」や「配信実績レポート」等が根拠資料となっています。
これらのレポート類は、掲載又は配信から1か月もしくは2か月後に送付されてくるものです。
そのため、「金額の正確性」については、正確な数値を確認することは困難であり、予防的なコントロールとして設定している場合は、設定したコントロールが意図された通りに機能しているとは言えません。
但し、内部統制の評価は、予防的な統制と発見的な統制のバランスにより、販売プロセスとして総合的に有効と判断されれば、問題はありません。
従って、タイムリーではなくても、キーとなる証憑は必ず受領し、保管しておきましょう。
事例③~入金管理業務の整備状況評価~
事例③は、入金管理業務の整備状況評価で発見された事例です。
入金管理業務は、請求金額と実際の入金額に差異がなく、予定通りに回収できているか、遅延が発生していないか等を把握する大事な作業です。
但し、取引先が多い企業では膨大な請求をしており、その分の消し込み作業も大量に発生します。
消し込み作業は、非常に煩雑であり、漏れや間違いが発生しやすい作業であるため、整備状況評価においても誤りが発見される可能性が高い業務領域です。
消し込み処理では、主に以下のような場合にミスが発生します。
①複数の請求書を合算して支払われる
②入金はされているが請求金額と一致しない
③請求名義と振り込み名義が異なる
※①と②が混在する場合、①②③全てが混在する可能性もあります。
複数枚の請求書を合算して支払われているが、請求額と一致しなかった場合、未だ回収していない売掛金の消込処理を実施してしまい、そのまま回収されずに売掛金の回収が不能になってしまうこともあるでしょう。これではやはり、設定したコントロールが意図された通りに機能しているとは言えません。
また、文書には上長承認の記載があるものの、あまりに件数が膨大なため、実際には見ていないといったケースもよく聞かれます。それでは業務プロセス文書の記載が実際の業務を反映しているとも言えません。
一方、販売プロセスの上流工程の内部統制に不備があっても、入出金管理による消し込みや、残高確認等のチェックがしっかりと機能していれば、虚偽記載の原因となる事象を発見でき、回避することも可能となります。
事例④~売上計上業務の整備状況評価~
事例④は、売上計上業務の整備状況評価で不備となった事例です。
売上計上業務の評価では、売上の架空計上や二重計上、期間の適切性等、実在性や網羅性、期間や金額の正確性等、複数の観点から評価する必要があります。
また、業種によって、売上の計上基準が異なる他、契約形態が請負契約か委任契約か等の契約形態によっても、計上時期が異なってきます。
ある建設業では、工事完成基準を採用しています。
工事完成基準は、目的物の全部を引き渡した時点で売上を計上しますので、工事終了までの発生費用は「未成工事支出金」として計上されます。
整備状況評価では、サンプル対象の売上の計上が適切であるかを評価するために、契約書、工事の進捗管理表、納品書、引渡証明書、請求書、仕訳伝票等を確認します。
これらは全て評価に必要な証憑ですが、特に「引渡証明書」は重要なキー証憑となり、「完成引渡日」は期間の適切性を評価する上で大変重要です。
これらの証憑を確認した際に、多く発見されるのが、完成引渡日と売上計上月のズレです。
売上の過大計上や、工事原価の過少見積等は、恣意的な操作が行われる場合もあり、上長承認だけでは、設定したコントロールが意図された通りに機能しないこともあります。
売上計上等に関し、不適切な会計処理が行われたことが判明した際は、過年度訂正が生じるとともに、開示すべき重要な不備に該当すると判断される場合もあります。
開示すべき重要な不備の起因分析では、不正を主要因とした件数が増加傾向にあります。
特に、企業のグローバル化に伴い、海外進出、海外拠点の拡大が急速に進み、親会社の目の届きにくい海外子会社の不正による開示が目立ってきています。
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まとめ
・受注業務の整備状況評価
☑ 契約書の決裁ワークフローの時系列は適切であるかを確認する。
☑ 契約書の決裁者は誰か、契約書の作成を誤るリスクは無いか、虚偽の契約書が作成される仕組みが無いかを職務分掌、職務権限の観点から評価する。
・請求業務の整備状況評価
☑ 何を根拠に請求書を発行したか、請求の根拠となるエビデンス(証拠・形跡)が重要である。
☑ キーとなる証憑は、タイムリーではなくても必ず受領し、保管しておく必要がある。
・入金管理業務の整備状況評価
☑ 入金消し込み作業は、非常に煩雑であり、漏れや誤りが発生しやすく、リスクの高い業務である。
☑ 入出金管理による消し込みや残高確認等のチェックがしっかりと機能していれば、虚偽記載の原因となる事象を発見できる。
・売上計上業務の整備状況評価
☑ 売上計上業務の評価では、実在性や網羅性、期間配分や金額の正確性等、複数の観点から評価する必要がある。
☑ 売上の過大計上は、恣意的な利益操作が行われる場合もあり、上長承認だけでは内部統制として不十分な場合もある。