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IFRSにおけるリファイナンスの会計処理~10%テストの実施方法~

2019年08月22日

 

借入金の返済や、条件変更といった『リファイナンス』ですが、IFRSと日本基準(以下J-GAAP)では会計処理が変わってきます。一般的には、旧契約の借入金については返済し、新契約の条件で新たに借り入れるといった会計処理が思い浮かぶと思いますが、IFRSでは2通りの会計処理が定められています。1つは、先ほどお話しした旧契約が終了したとみなすパターン(これを認識の中止と呼びます)、もう1つは旧契約がそのまま条件を変えて継続するとみなすパターンです。2つのパターンのうち、どちらの会計処理を行うかは『10%テスト』というものを実施し、判定することになります。
今回は、この『10%テスト』にフォーカスして、どのように進めるのかを詳しく解説します。

 


『リファイナンス』におけるJ-GAAPとIFRSの違い

資金繰りのため、銀行からの融資を借り換えるという行為はさほど珍しい取引ではありませんが、IFRSの会計処理は少し変わっています。一般的には、旧契約の借り入れを返済し、新契約の融資を借り入れたという処理を行いますが、IFRSではもう1つの会計処理が定められています。
IFRSでは、借り換え前と借り換え後のキャッシュ・フローの現在価値を比較し、10%以上の差異がある場合は、旧契約の認識を中止(返済)し、新契約を新たな融資として会計処理を行います。これは、先ほどお話しした一般的な会計処理(J-GAAP上の会計処理)と同じです。しかし、差異が10%未満の場合は、旧契約が継続しているとみなして会計処理を行わなければなりません。

 

【差異が10%以上(認識の中止)のケース】
・旧契約はリファイナンス時点で返済したとみなす
・旧契約にかかる取引コスト(手数料)は、リファイナンス時点で即時認識する
・新契約にかかる取引コストは、新契約の借入期間に渡って費用認識される
【差異が10%未満(契約の継続)のケース】
・旧契約の「契約変更」とみなして会計処理する
・旧契約と新契約の差額は、リファイナンス時点で利得または損失として即時認識する

 

IFRSでは差異が10%未満の場合、契約自体は変わっているものの、実態は変わっていないという判断になり、『旧契約の条件変更』とみなして会計処理を行います。契約よりも取引の「実態」を優先させる考え方は、IFRSならではの特徴の1つです。

 

 

10%テストの概要~旧契約における残存キャッシュ・フローの現在価値~

10%テストでは、旧契約のリファイナンス時点の残存キャッシュ・フローの割引現在価値と、新契約のキャッシュ・フローを旧契約の実効金利で割り引いた現在価値を比較します。以下の設例を基に、旧契約の残存キャッシュ・フローの現在価値を算定してみます。

この設例では、2017年1月1日に1百万円を銀行から借り入れ、2年経過後の2019年1月1日に借り換えを行ったというケースになります。10%テストの比較対象となる旧契約の値は、2019年1月1日時点の残存キャッシュ・フローの割引現在価値になります。では、実際のキャッシュ・フローを見てみましょう。

このように、2019年1月1日以後の支払日と金額を抽出します。上記のように抽出した支払スケジュールの金額を実効金利で割り引いた値が、残存キャッシュ・フローの現在価値となります。なお、割引計算を行う際は、以下の表のように支払年月ごとに纏めておくと計算が楽になります。

2019年1月1日時点では、キャッシュ・アウトが発生しないため⑥の合計は0円となります。2019年12月31日は、元金の返済(200,000円)と利息費用(12,000円)を合計した212,000円のキャッシュ・アウトが発生します。同じように2020年12月31日は208,000円、2021年12月31日は204,000円のキャッシュ・アウトが発生し、これらの現在価値は以下のように計算します。
2019年12月31日  212,000円÷(1+0.0253)^1
2020年12月31日  208,000円÷(1+0.0253)^2
2021年12月31日  204,000円÷(1+0.0253)^3
このように、毎年のキャッシュ・アウトを実効金利で割り引くことで、⑦の現在価値を算定することができ、⑦を合計すると「593,901円」になります。これが、旧契約における残存キャッシュ・フローの割引現在価値になるのです。
この593,001円という数値ですが、償却原価法(利息法)を適用していた場合の2019年1月1日(2018年12月31日)の帳簿価額と同じ値になります。参考までに利息法を用いた場合の簿価の推移を紹介します。

 

10%テストの概要~新契約に対する割引現在価値の算定とテスト結果~

10%テストにおける、旧契約の残存キャッシュ・フローについては前段で確認しましたので、ここでは新契約について見ていきたいと思います。では、先ほどの設例のうち、「新契約」の部分を使っていきます。

10%テストでは、新契約のキャッシュ・フローを旧契約の実効金利で割り引き、金額を算定する必要があります。新契約のキャッシュ・フローをまとめる前に、先ずは手数料を含めた支払(返済)スケジュール作成し、旧契約の実効金利で割り引きます。表の作成方法は前段で説明しましたので、ここでは割愛します。

⑦の金額を合計すると、641,047円という金額になります。これが、10%テストにおける新契約の比較対象額となります。
では、旧契約の残存キャッシュ・フローの割引現在価値593,901円と、上記で求めた641,047円を比較してみます。計算式は、以下の通りです。
1 - (593,901円 ÷ 641,047) = 0.074 = 7.4%
このケースでは、差異が10%未満となっていますので、旧契約の継続とみなして会計処理を行うことになります。仮に差異が10%以上になった場合は、旧契約の認識を中止し、新契約を新規で認識することになりますので注意してください。

 

『継続』と判定された場合の会計処理

10%テストで差異が10%未満だった場合、旧契約が継続しているとみなして会計処理を行わなければなりません。ただし、新契約とは簿価の差異が発生しますので、その差額を調整しなければなりません。

今回の設例では、旧契約と新契約の差額が47,146円発生しています。この差額については、利息として取り扱うことになりますので、仕訳として以下を計上します。
利息費用 47,146円 / 借入金 47,146円
この仕訳により、旧簿価の借入金593,901円に調整額47,146円が加算され、新契約の現在価値641,047円となるのです。今回の設例では、借方に利息が計上されましたが、貸方に計上(利得として計上)されるケースもありますので、注意が必要です。

 

 

リファイナンスにおける留意事項~取引コストの取り扱い~

ここまでで、リファイナンスにおける10%テストの処理方法を解説しましたが、1点気を付けなければないことがあります。それは、キャッシュ・フローの計算などで出てきた『取引コスト』です。一言で取引コストといっても、様々なものがあります。例えば、銀行などの金融機関に支払う手数料や、契約締結のための弁護士料などです。
借入金の簿価を計算する際は、これらの取引コストを借入金額から控除して求めますが、10%テストを実施する際、含めてはいけないものがあります。IFRSの原文に明示されている訳ではないのですが、10%テストにおいては、「貸手に支払う手数料のみを考慮すべき」と解釈するのが一般的となっています。したがって、銀行などの「貸手」に対して支払う手数料のみを計算に含め、弁護士料などは除外してテストを実施することになるのです。
契約の締結にあたり、弁護士料などが発生するケースは多いと思いますので、10%テストを実施する際は取引コストの取り扱いに注意してください。

 

 

まとめ

・IFRSにおけるリファイナンスの会計処理
☑ 10%テストの実施が必要で、差異が10%以上または10%未満で会計処理が異なる。
☑ 差異が10%以上の場合は旧契約の認識を中止し、新契約を新たに締結したとみなして会計処理をする。
☑ 差異が10%未満の場合は旧契約の継続(契約条件の変更)とみなして会計処理する。
・10%テストの概要
☑ リファイナンス時点の旧契約の残存キャッシュ・フローの割引現在価値は、利息法における簿価と同額。
☑ 新契約のキャッシュ・フローは旧契約の実効金利を用いて割引現在価値を算定する。
☑ 貸手に対する取引コスト以外(弁護士料など)は10%テストに含めない。

 

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