ITシステムの投資と一口に言っても、業種や業界、利用するユーザ部門によって様々なITシステムが挙げられると思います。最適なITシステムの投資を行うためには、あらかじめ、ITシステム投資の優先順位を定めたITのグランドデザイン(IT投資の計画)を立てることが必要です。
今回は、ITグランドデザインをテーマに、 IT企画を行う実務担当者の目線で、実務上の課題や実施のポイントを確認していきたいと思います。
ITグランドデザインとは
ITグランドデザインとは、限られたITシステムの投資予算を最適に配分するためにIT投資の方向性や企業システムの構築・利用の計画を定めることです。
ITシステムには、ユーザー部門の担当者、上長、情報システム部門など多くの人が関わります。そして、ITシステムが対象とする業務領域が広ければ広いほど、関係者は増えていきます。そうなると、部門ごとや担当者ごとにITシステムへの要望が異なることも少なくありません。関係者全員の要望をすべて取り入れようとすると、必要なITシステムや機能が際限無く増えてしまい、ITシステム投資の額も膨大なものとなります。
ITグランドデザインのために必要な要素とは
それではまず、ITグランドデザインを策定する上で、必要な要素を確認していきます。
①「会社の戦略」と「ITシステムの方向性」を合わせる
IT投資は、企業のビジネスを支えるために行うものです。企業経営の屋台骨になる、とも言えます。企業のITには様々な人が関わります。そして、それぞれの人がITシステムに対する要望を持っています。予算や人員が限られるなか、すべての要望に応えることはできません。
IT投資を企画するにあたっては、「会社の戦略」を踏まえて「ITシステム投資の方向性」を明確にする必要があります。そうすることにより、IT投資予算を企業戦略に合わせて配分することができるのです。
②ITシステム課題を洗い出し、ITシステムの将来像を描く
ITグランドデザインを策定するにあたっては、現在のITシステムの課題を洗い出す必要があります。そのうえで、「ITシステム投資の方向性」も踏まえて、ITシステム投資を行うべき領域を定め、ITシステムの将来像ないし目標を描き、投資するITシステムからどのようなベネフィットを享受できるか明確にします。
ITシステムの全体像を描くことにより、目指すべき姿を企業の共通認識として、定義付けることができるのです。
③費用対効果を見極める
①②の結果、仮に「生産管理のシステムを強化すべきだ」という方向性・将来像が導き出されたとしても、それだけで結論とする訳にはいきません。最後に、ITシステム投資の費用対効果を考える必要があります。
ITグランドデザインを策定する上では、費用に対してどれぐらいの効果が得られるかという点も考慮したうえでITシステム投資の優先順位を決める必要があります。
ITグランドデザインの課題
ITグランドデザインを策定するにあたり、直面する課題にはどのようなものがあるのでしょうか?
以下、ITグランドデザインを検討する際によくある課題を挙げます。
①最新のシステム・IT情報を入手することができない
ITの世界は日々進化しています。数年前は常識とされていたことが、非常識となることも少なくありません。逆に、一昔前には実現できなかったことが、技術進歩によって実現できるようになったにも関わらず、昔ながらの業務の進め方のまま放置して、最新のIT技術から取り残されてしまうこともあります。
IT投資を企画するうえでは、最新のIT技術を取り入れた取り組みなども考慮して進めるべきですが、同業他社の事例も含め、最新のIT情報を入手するのは難しいものです。
②業務分析(As-Is,To-Be)の進め方がわからない
ITシステムの投資は、少なからず業務の効率を上げるために行われるものです。単に現行の業務のやり方をそのままITシステム化するだけでは業務効率を上げることをできず、また投資額も不必要に膨らんでしまいます。
投資にあたっては、現行業務を分析(As-Is)したうえで、理想とする将来像(To-Be)を明確にしなければなりません。しかしながら、As-Isの分析やTo-Beを描ける人材が社内にいないことが多いです。
③どのように費用対効果を分析すればよいかわからない
ITグランドデザインでは費用対効果を見極めることが重要とお伝えしましたが、実際に費用対効果を分析するとなった場合に、どのように考えればよいかわからない、という方も多いと思います。
また、企画段階では、実現したいITシステムや機能に対して、どれだけの費用がかかるかも判断が付かないことが多いです。
このように、実際に費用対効果を考えようとすると、悩む点は多いかと思います。
ITグランドデザインにおける課題解決
ITグランドデザインにおける課題の解決策としては、以下のような方法が考えられます。
①IT情報の収集
最新のIT技術や同業他社事例などの情報は、ベンダーを利用することで、それらの情報を参考にしながら企画を立てることが可能です。しかし、ベンダーに質問をしても当たり障りのない答えしか得られない可能性が高いです。
その問題を解決するための方法として、RFI(情報提供依頼書)を活用することが考えられます。RFIを作成することにより、ベンダーに必要な情報を整理して伝えることができます。
②業務分析の進め方
業務分析は、業務の棚卸から始まり、課題の抽出、課題解決策の検討といった流れで進めます。ここでいう課題解決策の方向性として、ITシステムの利用可能性が高いのであれば、この時点で「ITソリューション(ITで解決すべき課題)=ITシステム投資」が明確になります。
業務を可視化することで課題が明確になり、課題の原因を追究・分析することより、ITシステムの投資要否を明らかにすることが可能です。
③費用対効果の考え方
最も分かりやすい費用対効果として、
「10人で行っていた現場の作業が2人でできるようになった」といった人件費の削減効果があります。
また、情報システム部門の方に関わりが深いものとして、システムの運用コストの削減(保守費用逓減、運用負荷の軽減)というものも挙げられます。
ただ、それだけでは費用が減る、という効果だけになってしまいます。
IT投資の効果はそれだけではないはずです。
例えば、IT投資により日々の事務作業が軽減されれば、業務に携わっている人が本来注力すべき業務に専念できるようになります。そのような視点で効果を測ってみることも重要だと思います。
商品開発担当者の事務作業が減れば、減った作業時間を新たな商品開発に充てることができ、その分多くの新商品を生み出すことが期待できます。その新商品が利益を生むことを考えれば、効果は単に工数の削減だけではない、と言えます。
また、定量的に測れない効果として、会社としてのリスク削減があります。
会計システムを変更するのであれば、内部統制に対応できるものや、不正やミスをなくすための仕組みをもったシステムにすることで、リスクを削減したり、リスク抑制のために必要な負担を軽減することができます。
このように、単に費用を削減するだけではなく、様々な視点から効果を考える必要があります。
ITグランドデザインを策定する一番の狙いは、会社の方向性と合わせたIT投資企画を立案し、経営者や現場のユーザーにITシステムを構築する目的を理解してもらうことです。そのためには、現場のユーザーの方々にも参画してもらい、皆の納得が得られる企画にまとめていくことが大切です。
ITシステムの投資を考える際には、必ずITグランドデザインを策定すべきです。ITグランドデザインは、リスクの低い、確実な投資効果を得られる手段として非常に有効であると言えます。
まとめ
■ITグランドデザインとは
ITシステム投資の方向性を決定すること
ITグランドデザイン=ITシステム投資の方向性を決めるための全体にわたる計画や構想
■ITグランドデザインに必要な要素
①「会社の戦略」と「ITシステムの方向性」を合わせる
②ITシステム課題を洗い出し、ITシステムの将来像を描く
③費用対効果を見極める
■ITグランドデザインの課題
①最新のシステム・IT情報を入手することができない
②業務分析(As-Is,To-Be)の進め方がわからない
③どのように費用対効果を分析すればよいかわからない
■ITグランドデザインにおける課題解決
①IT情報の収集:外部ベンダーの利用・RFI(情報提供依頼書)の活用
②業務分析の進め方:業務の可視化・課題の原因分析・ITソリューションの方向性明確化
③費用対効果の考え方:人件費の削減効果やシステムの運用コストの削減等
ITグランドデザインを策定することにより、リスクの低い確実なITシステムの投資効果を享受できる