大手企業による不正問題がニュース等で大きく取り上げられました。社内不正の防止や早期発見に向けた機運の高まりに伴い、内部監査部門の在り方は大きく影響を受けています。また、2024年4月に内部統制実施基準の改訂が行われました。影響の大小は企業ごとに異なりますが、いずれの企業においても対象範囲が広がる方向の改訂です。こうした背景を踏まえ、内部監査部門に求められている役割や期待、責任は年々増加する傾向にあると言えるでしょう。
弊社では定期的に内部監査部門を対象にしたWebセミナーを開催し、セミナー参加者様には自社が抱えているお悩み事についてのアンケートを行っており、アンケートの回答によっては電話やメールで詳細をヒアリングさせていただくこともあります。今回は、アンケート結果やセミナー参加者からのお話を踏まえ、内部監査部門が抱えている課題と解決方法について考えてみようと思います。
目次
アンケートから見るJ-SOX構築・評価の現状
セミナー後のアンケートで、お客様が抱えているJ-SOX構築・評価に関する課題やお悩み事について質問したところ、下記のような結果になりました。
(主な回答例)
・評価作業の負荷を減らし、効率化させたい
・自社における評価範囲や評価手法の見直しを検討したい
・実施基準の改訂により、対象範囲が増える可能性が高い
・内部統制のための効果的なITツールを探している
特に多かったのは、『評価作業の負荷を減らし、効率化させたい』といった回答でした。内部監査部門のリソースが不足している状況に対し、J-SOX評価の作業負荷を重いと感じている企業は多いようです。また、内部監査などの他業務と兼務でJ-SOXの対応も行っている場合が多く、J-SOX評価作業を効率化して他の業務に時間と労力を割きたいと考える方もいるようでした。次いで、『自社における評価範囲や評価手法の見直しを検討したい』という回答が多い結果になりました。評価範囲や評価手法を見直す場合は監査法人との協議が必要になりますが、ノウハウが不足し監査法人との交渉ができず、具体的な見直しが進まない、というお話もありました。また、『実施基準の改訂により、評価範囲が増える可能性が高い』という回答も多く頂いています。今回の実施基準の改訂によって各企業が行うJ-SOXの負担は増えることになりますが、評価作業が増えるだけでなく、新たな評価範囲に対して構築作業が発生する点も重要です。評価の経験はあっても構築の知見をもつ担当者は意外と少ないようで、慣れない構築作業がさらなる負担になるようです。
評価作業の見直しなどによるJ-SOX評価の効率化を望む回答が多く見受けられました。その背景には、内部監査部門の慢性的なリソース不足、実施基準の改訂があるのではないでしょうか。
アンケートから見る内部監査の現状
続いて、お客様が抱えている内部監査に関する課題やお悩み事についてのアンケート結果になります。
(主な回答例)
・内部監査の作業スタッフが足りない
・監査チェックリスト作成のノウハウがない
・書面監査を実施しているが、もっと効率化(IT化)したい
・情報システム監査の経験・ノウハウがない
・海外監査を遂行できる監査部門スタッフが足りない
最も多かった回答は『内部監査の作業スタッフが足りない』でした。内部監査部門における人手不足という課題は、企業規模や業態に関わらず内部監査部門としての共通認識といえるかも知れません。続いて多かった回答は、『監査チェックリスト作成のノウハウがない』でした。セミナーに参加されたお客様のご意見を伺うと、監査チェックリストの作り直しができないまま前年度の内容を踏襲し、業務内容や組織体制の変更に伴う更新が行われない結果、内部監査が形骸化しているという課題が発生しています。その他、『書面監査を実施しているが、もっと効率化(IT化)したい』という回答も多くいただいております。コロナ禍の頃、実地監査の代替として書面監査を実施していたという話を伺うことが多くありましたが、近年では往査の前の事前調査の一環として書面監査を取り入れている企業が増えております。また、専門知識やスキルを求められるという点で、『情報システム監査の経験・ノウハウがない』『海外監査を遂行できる監査部門スタッフが足りない』といった回答も見受けられました。
内部監査においてもJ-SOX同様、リソース・ノウハウの不足を課題に抱えている企業が多いようです。
内部監査部門における課題
上述のアンケート結果を総括すると、内部監査部門が抱える課題として、以下のような状況が浮き彫りになります。
◆内部監査部門に求められる役割および作業量が増える一方で、リソースが不足している
J-SOX、内部監査どちらのアンケート結果でも、一番多い回答が人手不足でした。人手不足に対する一般的な対応としては、中途採用や社内異動などで人員増加を行うか、少ない人員で運用できるように業務内容や進め方を見直すか、のどちらかを行うことになります。ただ、バックオフィス部門全般に言えることですが、内部監査部門は売上や利益を直接生み出す部署ではないため、少数精鋭的なリソース配分で必要な成果を上げる部署として運用される傾向にあります。
◆内部監査部門の業務を自力でアップデートするだけのノウハウがない
ビジネスの移り変わりの速度が昔よりも速くなっており、内部監査部門においても、法改正あるいは事業内容や世相、トレンド等の変化、ITなどの技術進歩に合わせて監査対象や監査内容などを見直す必要があります。しかし、業種、業態、会社規模、組織体制、リスクは企業ごとに異なるので、すべての企業に当てはまるような共通の処方箋が存在しません。各企業にとってベストな内部監査の在り方を考えていく必要がありますが、ノウハウが足らずその回答を出せないことが課題となっているようです。
また、セミナー参加者からお話を伺う中で、ITに苦手意識をもつ内部監査担当者が多いという印象を受けました。各部署の業務内容や社内事情に詳しい内部監査担当者でも、ITに関する知識が及ばず、IT統制やIT監査への苦手意識を抱えている、というケースが少なからずありました。この苦手意識が内部監査業務において、ITサービスの利活用が遅れる要因にも繋がっているのではないでしょうか。
内部監査部門として、リソース不足、ノウハウ不足という大きく2つの課題を抱えている傾向にあり、その対策を講じる必要があります。
内部監査部門が抱える課題への対策① ITツールの活用
上記のような課題を解決・解消するため、様々なアプローチの仕方があるかと思いますが、ここでは大きく2つの方向性をご紹介したいと思います。まずひとつが、ITツールの活用です。
ITへの苦手意識を抱えた内部監査担当者が多いと書いた直後ではありますが、今の時代において、業務におけるITの利活用は避けて通れない状況にあります。全体的な傾向として、内部監査部門によるITツールの活用は他部門と比べて進んでいないように思われます。改めてITツールによる作業の自動化や各種データの管理を検討してみるのはどうでしょうか。ネックになりやすいポイントとしては、一口に内部監査部門向けの支援ツールといっても製品機能が大きく異なる点が挙げられます。また、経理部門における会計システムなどと比べると、内部監査部門用のITツールはそもそも製品数自体が多くありません。自社の環境や用途に合う適切なITツールを選定するためには、他部門以上に労力をかけて情報収集し、幅広くツールを検討する必要があるでしょう。
ちなみに、AIMCでは過去にこのようなITツールを内部監査部門のお客様へご案内いたしました。
・操作ログ収集ツール
PCの操作履歴を収集・管理するツールです。各従業員が社内ルールに準拠して業務を進めているかを網羅的にチェックすることが可能です。
・Webツール監査
質問票の作成および回答結果の集計を行うツールです。あらかじめ用意した選択肢から回答を選ぶなど自由に設定できるので、書面監査の効率化に利用できます。
・メール監査ツール
従業員のメールデータの収集・管理ツールです。情報漏洩や取引先へのハラスメント等について、チェックまたは防止することが可能です。
これらのツールによっては内部統制評価や内部監査以外にも、例えば、ブラックボックス化した業務の解消やトラブル発生時の早期発見などで活用が期待できます。そのため、他部門と共同でツールを導入し、予算上限を折半でクリアする、などという方法も検討できるかも知れません。
内部監査部門の課題解決における方向性のひとつとして、ITツールの活用があります。内部監査部門向けのITツールは数も種類も多いとは言えませんが、業務支援ツールが内部監査の一助となる可能性があるので、是非一度検討してみてください。
内部監査部門が抱える課題への対策② アウトソーシングの活用
課題を解決・解消するためのもうひとつの方向性は、アウトソーシングの活用です。抱えている課題に対して具体的な対策が見えていない状況であれば、外部の専門家の力を借りてみるのはどうでしょうか。内部監査部門のお客様とお話させていただく中で、内部監査は社内リソースだけで対応していくべき業務と認識している方が意外と多い印象を受けます。顧問弁護士による法務対応の外部委託などは多くの企業が利用されていますし、経理代行、営業代行といったサービスを利用している企業も珍しくない中、J-SOX評価や内部監査のアウトソーシングに関しては、まだまだ世間の認知度が低いのが現状です。J-SOX評価や内部監査に関する業務を丸ごと委託する必要はなく、例えば、ITに関して不安を感じているのであれば、IT統制やIT監査に限定して外部に委託するなど、社内ノウハウの足りない部分に限定して支援を受けることも有効です。
アウトソーシングを利用するメリットとして、足りない社内リソースを補えることはもちろんですが、外部の知見を得られる点も大きなメリットと考えます。他社ではもっと簡便な手法で実施されているにも関わらず、知識不足や思い込みによって複雑な手順で進めている可能性はないでしょうか。アウトソーシングによって外部の知見やノウハウを吸収できる点は、クローズな世界になりがちな内部監査部門において大きな意味があると言えます。
内部監査部門の課題解決のもう一つの方向性として、アウトソーシングの活用があります。リソース不足を補うだけでなく外部の知見・ノウハウを取り入れつつ、課題への具体的な対策を進めては如何でしょうか。
まとめ
弊社のアンケート結果から、内部監査部門が抱える課題として以下のような回答を多くいただきました。
(J-SOX構築・評価における主な課題)
・評価作業の負荷を減らし、効率化させたい
・自社における評価範囲や評価手法の見直しを検討したい
・実施基準の改訂により、対象範囲が増える可能性が高い
・内部統制のための効果的なITツールを探している
(内部監査における主な課題)
・内部監査の作業スタッフが足りない
・監査チェックリスト作成のノウハウがない
・書面監査を実施しているが、もっと効率化(IT化)したい
・情報システム監査の経験・ノウハウがない、海外監査を遂行できる監査部門スタッフが足りない
これらの回答や、直接お話を伺った結果を踏まえると
『内部監査部門に求められる役割および作業量が増える一方で、リソース不足を抱えている』
『内部監査部門の業務を自力でアップデートするだけのノウハウがない』
このような課題を抱えている現状が伺えます。
この状況への対策として、ひとつの方向性は『ITの活用』です。
内部監査部門向けのITツールは数も種類も多いとは言えず、各社の事情に合わせた選定が必要ですが
・操作ログ収集ツール ・Webツール監査 ・メール監査ツール
このような業務支援ツールが内部監査の一助となる可能性があります。
もうひとつの方向性が『アウトソーシングの活用』になります。
リソース不足を補うだけでなく社外の知見・ノウハウを取り入れられる点でも効果が期待できます。