経理に限らず間接部門の業務は、作業プロセスや成果が見えづらいことから、評価基準が明確に定められてない企業が多くあります。評価基準が明確になっていないと、担当者のモチベーションが下がり、他社へ転職したり生産性が下がってしまうリスクが高まります。人手不足が深刻化している現在、経理スキルを持った人材の確保は非常に困難になっていますので、限られた人材で業務を遂行する必要があります。退職リスクの軽減、生産性の向上は、経理部として最優先で取り組まなければならない課題といっても過言ではありません。
このような状況のなか、ABC(活動基準原価計算)やABM(活動基準原価管理)を活用した経理業務の管理は、評価基準を明確にするだけでなく、生産性の向上にも役に立ちます。今回は、ABC、ABMについての概要と導入手法、そして生産性向上のための評価基準の策定についてご紹介します。
ABC(活動基準原価計算)とは?
ABCは、「Activity Based Costing」の略称で、日本では活動基準原価計算と呼ばれています。マーケティングの分析手法で「ABC分析」というものがありますが、これとは全く異なり、1980年代に開発された間接費の管理手法になります。 ABCとセットで、ABM(Activity Based Management)やABB(Activity Based Budgeting)が存在します。
「活動基準原価管理」という字面から難しそうない印象を持つかもしれませんが、簡単に説明すると各業務に対して時間と単価でコストを算出するという単純な方法です。厳密には、時間以外にも件数等を「原価作用因」を定義し、算出するのですがここでは一旦隅に置いておいて問題ありません。
ABC(活動基準原価計算)
間接部門のコスト計算に威力を発揮する手法で、活動(業務)に対して原価作用因(作業時間や件数)を乗じてコストを算出します。
ABM(活動基準原価管理)
ABCよって算出された活動コストやABC情報に基づき、戦略的・業務的意思決定や継続的改善、プロセス改革に活用する手法です。
ABB(活動基準予算管理)
ABCにより算出された活動コストを実績と予算(目標)で対比し、差異の原因を分析して改善活動につなげていくコストマネジメント手法になります。
ABC、ABM、ABBの関係性ですが、ABCで各業務におけるコストを算出し、ABMで改善、ABBで目標と実績の差異分析と評価を行うといったサイクルになりますので、このサイクルだけ押さえておけば問題ありません。
経理部門におけるABC・ABM・ABBの導入プロセス
ABC・ABM・ABBの導入にあたっては、①活動定義、②活動量の計測・コスト算出、③活動コスト分析・予算設定、④効果測定と主に4つのプロセスで進めます。それぞれどのようなことを実施するのか、個別に見ていきましょう。
①活動定義(業務のたな卸し~業務体系の整理)
ABCは、活動基準原価計算というその名の通り、活動(=業務)を基準としてコストを算出します。1つ1つの活動が定まっていないと、この後のプロセスで矛盾が生じてしまいますので、ここでしっかりと定めておく必要があります。活動定義の方法としては、業務のたな卸しを行い、業務の体系を整理し、業務一覧表を作成することで達成できます。
業務たな卸しの実施方法としては、以下のブログで詳細を記載していますので、参考までにご確認ください。
「業務改善の第一歩!「業務棚卸」を成功させるポイント」
②活動量の計測・コスト算出(作業時間の集計~時間単価の決定)
一覧化した各業務に対して活動量(=作業時間)を計測します。1つ1つの作業時間を計測することは現実的に難しいと思いますので、ヒアリングやアンケートで情報を収集しても問題ありません。また、担当者毎に時間単価を決定する必要があります。時間単価は、該当する担当者の役職の平均給与÷月間作業時間(約160時間)×1.2~1.5(福利厚生分のコスト加算)で算出します。
③活動コスト分析・予算設定(改善施策策定~次年度目標設定)
業務一覧表にコストを記載し、分析することでコスト削減に繋がる改善施策を策定します。単純に作業効率を上げて作業時間を削減する方法が一般的ですが、単価を下げる(役職の低い担当者に業務を任せる)といった手法も有効です。また、活動コストの10%削減といった目標も設定する必要があります。
④効果測定(改善活動の評価)
定めた目標に対してどの程度達成できたのか、効果を測定します。効果測定は、作業時間を再計測し、単価を乗じてコストを算出します。算出したコストと②の改善前のコストを比較することで、目標の達成具合を確認することができます。
このように、業務を一覧化し、収集した作業時間に時間単価をかけ、各活動に対する原価を算出するのです。また、算出した原価を改善するための目標を設定し、予実対比することで評価の土台を作れるようになります。
ABC・ABM・ABB導入のポイント:活動量の計測
ABC・ABM・ABBの導入において、一番頭を悩ませるのが活動量(作業時間)の計測です。各業務の作業時間をストップウォッチを持って計るわけにはいきませんので、計測方法を検討しなければなりません。計測方法は様々なものがありますが、精度の低い方法を用いてしまうと、適切な評価が難しくなります。手間と精度はトレードオフの関係にありますので、そこまで手間がかからず、客観的に見て問題がない程度の方法を見つけなければなりません。
活動量の計測方法としては、勤怠管理システムなどのシステムを用いて集計する方法と、日報や週報といった業務報告を用いる方法がありますので、これらを用いると効果的に測定することが可能になります。
システムを用いて計測する方法
業務一覧表に記載した業務を勤怠管理システム等の工数管理機能に登録し、担当者に日々の作業時間を記録させます。業務一覧表の一番細かい単位で登録すると、項目数が多くなりすぎてしまいますので、ある程度グルーピングした単位(業務の大項目や中項目レベル)で登録すると記録・集計がしやすくなります。
業務報告を用いる方法
日報や週報の中に作業時間を記載する欄を設けます。担当者に自由に記載させてしまうと、集計が困難になってしまいますので、業務一覧表とリンクさせる必要があります。①と同じように、業務の大項目や中項目をリスト表示で選択させ、時間を記載してもらう方法が有効です。
勤怠管理システムに工数管理の機能がある場合は①のシステムを用いて集計する方法を推奨しますが、機能が存在しない場合は②の報告書に記載させることで、作業時間を計測することが可能になります。自社の状況を考慮して、いずれかの方法を選択してみてください。
ABC・ABM・ABBを用いた評価基準の策定
ABC・ABM・ABBを用いた評価基準ですが、チーム単位で設定する方法と、個人単位で設定する方法の2パターンが存在します。管理者であればチーム単位、担当者であれば個人単位で目標を設定し、実績と突合して評価を行います。
チーム単位で目標を設定する方法
管理者であれば、自分だけでなく部下が担当する業務を含めて削減目標を設定します。目標は、全体の10%の削減としても良いですし、特にコストが高い業務を抽出し、その業務に対して○○円の削減と設定しても問題ありません。
個人単位で目標を設定する方法
担当者の場合は、個人単位で削減率または削減額を設定します。担当者の場合は、担当する業務が変更になるケースもありますので、業務単位ではなく、担当する業務全体に対する削減目標を設定することをお勧めいたします。
ここまでで、ABC・ABM・ABBの導入と、活動量(作業時間)の集計方法をお伝えしましたが、導入後すぐに効果が現れる訳ではありません。業務一覧表や作業時間の記録・集計方法、目標の設定方法は、運用に合わせて改善が必要で、時間をかけて定着させていく必要があります。特に経理は、四半期に1回、半期に1回、年度に1回と実施頻度が低い業務がありますので、2~3年は試行錯誤を重ね、自社にあった評価基準や運用ルールを作成しなければなりません。
今まで分からなかった業務のコストが見えるようになり、削減できていると実感することで、担当者のモチベーションは確実に向上しますので、失敗を恐れずに改善を繰り返し、定着させてみてください。
まとめ
■ABC(活動基準原価計算)とは?
・ABC(Activity Based Costing)とセットで、ABM(Activity Based Management)やABB(Activity Based Budgeting)が存在する。
・ABCでABCで各業務におけるコストを算出し、ABMで改善、ABBで目標と実績の差異分析と評価を行うといったサイクルになる。
■経理部門におけるABC・ABM・ABBの導入プロセス
・ABC・ABM・ABBの導入は、①活動定義、②活動量の計測・コスト算出、③活動コスト分析・予算設定、④効果測定と主に4つのプロセスで進める。
・ABCでは、業務一覧表の作成、作業時間の計測とコストの算出を行い、ABMでコスト分析、改善施策の検討、ABBで予算策定、効果測定を行う。
■ABC・ABM・ABB導入のポイント:活動量の計測
・活動量の計測には、勤怠管理システム等のシステムを用いて集計する方法と、日報や週報といった業務報告を用いる方法がある。
・勤怠管理システムに工数管理の機能がある場合は、のシステムを用いて集計する方法が推奨される。
■ABC・ABM・ABBを用いた評価基準の策定
・評価基準は、チーム単位で設定する方法と個人単位で設定する方法の2パターンが存在する。
・ABC・ABM・ABBは導入後直ぐに効果が出るわけではないので、少なくとも2~3年は改善を繰り返して定着化させる必要がある。