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J-SOX対応ガイド~新拠点が評価対象になった場合の対応方法~

2024年08月22日

 

2008年に内部統制報告制度が適用され、コーポレートガバナンスの強化に一定の効果をもたらしました。しかし、評価範囲外から重要な不備が検出される等の問題を背景に、内部統制実施基準が改訂されました。その結果、質的重要性を考慮し、評価範囲の選定基準を見直すことが必要になりました。特に海外拠点は本社からの管理が行き届きにくく、不正行為や不祥事が発生しやすい環境にあるため、J-SOXの評価対象になる可能性があります。
今回は、J-SOXの評価対象拠点が追加される様々なケース「M&A等により、新拠点が増加した場合」「重要な事業拠点が追加された場合」「海外拠点が評価対象になった場合」を取り上げ、それぞれのケースにおける内部統制の構築・評価の対応方法を確認していきます。

内部統制実施基準改訂~新拠点対応における内部監査部門の役割~

 

2024年4月に内部統制実施基準が改訂されました。この改訂の背景には、評価範囲外から重要な不備が検出されたことで、内部統制報告制度に対する形骸化の懸念が生じたことがあります。また、国際的にも内部統制の仕組みが見直しが行われており、これに対応する必要がありました。今回の改訂において、内部監査部門としての役割は以下の通りになります。

 

①長期間評価対象外であった拠点・プロセスの検討
今回の実施基準改訂で「質的重要性」「不備の発生状況」等を踏まえ、長期間にわたり評価対象外であった拠点やプロセスを評価対象に含めるかを検討する必要があります。例えば、製造業において、長年評価対象外としていた海外工場で製品原価に関わる問題が発生した場合、その拠点を評価対象に含めるか検討するべきです。
②規程・マニュアル等の再整備
長期間評価の対象外だった影響で、規程・マニュアル等が未整備・未更新である可能性も考えられます。内部監査部門の役割としては、現地スタッフに規程やマニュアルの整備を依頼したり、その整備方法について助言することが求められます。規程やマニュアルの整備を成功させるためには、J-SOXの重要性を詳しく説明し、十分に理解してもらい、協力を得ることが不可欠です。
③内部統制評価スケジュールの設定
海外拠点が評価対象となる場合、現地の言語または英語によるチェックリストの作成や往査の実施が必要です。翻訳作業や通訳の手配には時間がかかり、また、対象拠点では内部統制の対応経験がなく、証憑の収集にも時間がかかる傾向があります。これらを考慮して内部統制評価スケジュールを立てることが、内部監査部門の役割となります。

 

J-SOX評価の準備には対象拠点への説明、チェックリストの新規作成、海外拠点の場合には資料の翻訳等があり、内部監査部門と現地スタッフの負荷が増します。したがって、スケジュールを検討し、できるだけ早く対応することをお勧めします。

 

 

M&A等で新拠点が増加した場合のJ-SOX対応~全社統制・決算統制(全社)の構築・評価

 

年々増加傾向にあるM&A等で新拠点が増加した場合、質的重要性が高い拠点として、全社統制と決算統制(全社)の評価対象になる可能性があります。統制が異なる新拠点に対する主な対応方法としては、「対応計画の検討」「体制・人員の準備」「社内ルールの確認」が挙げられます。

①対応計画の検討
新拠点の決算時期と現行の整備状況等を踏まえ、内部統制の構築・評価スケジュールを検討することが重要です。初めてJ-SOXに対応する場合、現場において「証憑の収集」「質問事項の確認」等の業務に一定の負荷がかかります。現場の状況等を考慮し、内部統制構築および評価のスケジュールを立てることが成功のカギとなります。
②体制・人員の準備
新拠点との連携をスムーズに進めるために、本社で「構築担当」、新拠点で「現地担当者」を選任することをお勧めします。担当者を明確にすることにより、本社と新拠点の間で密にコミュニケーションを取ることができます。また、構築担当者はこれまでの内部統制対応の経験を活用し、現地担当者に内部統制対応のノウハウを共有することもできます。
③社内ルールの確認
職務権限規程、職務分掌規程、経理規程等、J-SOX対応に必要な規程やマニュアルの有無を確認します。新拠点では、基本的な規程のみ整備されている可能性があります。規程が不足している場合は、本社の規程等を参考にして作成・更新することが効率的です。

まずは新拠点の状況(決算時期・規程等の整備状況)を考慮し、対応可能なスケジュールを立てることと、現地とコミュニケーションをスムーズにするために本部と新拠点で担当者を決めることが大切です。十分な事前準備により、「社内ルールの確認」等の作業を効率よく実施することができます。

 

 

重要な事業拠点が追加された場合のJ-SOX対応~業務プロセス統制の構築・評価

 

内部統制実施基準の改訂前、重要な事業拠点を選定する際、「売上高の概ね2/3」の指標を採用することが一般的でした。しかし、改訂後は自社の実態に応じて「売上高」以外の指標(総資産、経常利益、税引前利益等)を検討する必要があります。評価範囲の指標を見直した結果、業務プロセス統制の評価が必要になる可能性があります。その対応として「対象プロセスの検討」「現行業務の把握」「対象システムの確認」が必要です。

 

①対象プロセスの検討
重要な勘定科目(売上、売掛金、棚卸資産)に加え、リスクが高い科目や予測・見積もり、非定型取引等、追加すべき科目がないかを検証する必要があります。不正事例として、子会社で決められた検査を実施せず、過去の合格データを転記するという不正が発覚し、親会社でも不良品の出荷や性能データの偽装が発覚し、社長を含む取締役全員が辞任する事態に至ったケースがあります。このような場合、重要な勘定科目に加えて、不良品処理費用等に関する科目を追加することが考えられます。
②現行業務の把握
評価対象となる業務プロセスについて、現地担当者にヒアリングを行い、業務内容・業務の流れ・担当部門等を把握します。業務プロセスを把握することにより、各プロセスに潜在するリスクを抽出し、それに対するコントロールが整備・運用されているか確認できます。リスクを網羅的に捉え、コントロールが機能しているか確認するには、業務内容や業務の流れを正確に理解することが重要です。
③対象システムの確認
評価対象プロセスに関連するIT基盤(システム)が、IT全般統制評価の対象となり、有効に構築・運用されているか確認しなければなりません。システム管理が不適切な場合、財務データの信頼性が低下したり、財務報告の提出が遅延したり、または不正発見が遅れる等、財務報告に大きな影響を与える可能性があります。

 

このように重要な事業拠点が追加される場合には、「対象プロセスの検討」「現行業務の把握」「対象システムの確認」が適切に行われることが大切です。これらの対応が不十分であると、財務報告に影響を及ぼし会社の信頼と評判を損ない、経営にも大きな影響を及ぼす可能性があります。

 

 

書海外拠点が評価対象になった場合のJ-SOX対応~内部統制の構築・評価の進め方

 

今回の内部統制実施基準の改訂により、これまで評価対象外だった海外拠点も評価対象に含まれる可能性が高くなります。これは、J-SOXの評価対象を選定する際に「質的重要性」や「不備の発生状況」等を考慮する必要があるためです。評価対象に含まれていなかった海外拠点の内部統制対応では、以下のポイントが重要です。

①「不正の機会を減らす仕組み」の整備
規程やマニュアルの整備に加え、規程の周知や研修を実施することで、不正に対する認識が社内で広まり、不正が発生しにくい環境を構築できます。また、内部統制の基本である職務分離や上長のチェック、ジョブローテーション等、不正の機会を減少させる仕組みを設けることも抑止力となります。
②親会社の統制活動
親会社が海外子会社に対して積極的に統制活動を実施することが重要です。親会社による管理と監督により、監視機能が強化されます。結果的に、親会社の統制に依拠することで、海外子会社における評価チェックリストの項目が減り、J-SOX評価の効率化が進みます。
③海外拠点とのやり取り
内部統制の構築・評価において重要な要素の一つが「海外拠点との連携」です。密なコミュニケーションが取れていれば、「意図した証憑が届かない」「期日通りに届かない」といった問題が発生した際も、現地スタッフと迅速に連絡を取ることができます。親会社と海外子会社が一つのチームとしてJ-SOXに対応することが、成功のカギとなります。
④決算期のズレに伴うスケジュール管理
国内の会社では3月決算が多い一方、海外では12月決算が一般的であり、本社と海外子会社間で決算期のズレが生じます。このズレや異なる繁忙期、祝祭日を考慮して、進捗管理表を作成し、タスクを管理することと必要です。進捗管理表を活用し、タスクの進行状況・期日・担当者を随時確認すべきです。

本社からの管理が困難な海外拠点では、不正や不祥事が発生しやすいため、評価範囲に追加される可能性が高くなります。内部統制の構築には一定の期間がかかるため、評価範囲の追加があるかどうかを早めに確認し、そのうえで内部統制の構築を早期に進める必要があります。

 

 

 

まとめ

 

内部統制実施基準改訂により、新拠点を評価対象にするケースが増加すると思われます。しかし、「新拠点を評価対象にする」場合でも、それぞれの状況により対応する方法は異なります。評価対象となる状況や背景を十分に理解し、適切な対応方法を選ぶことで、評価作業を適切かつ効率的に進めることができます。

 

■新拠点対応における内部監査部門の役割
・新実施基準と客観的根拠に基づき、評価範囲を設定する。
・現地スタッフに規程やマニュアルの整備を依頼し、整備方法について助言する。
・内部統制評価スケジュールを立てる。

 

■M&A等で新拠点が増加した場合
・内部統制の構築スケジュール・評価スケジュールを検討する。
・本部で「構築担当者」、新拠点で「現地担当者」を選任する。
・J-SOX対応上必要となる規程やマニュアル等、社内ルールの有無を確認する。

 

■新拠点が重要な事業拠点になった場合
・個別に追加すべき科目(リスクが高い、予測・見積り、非定型取引等)がないか検証する。
・業務内容や業務の流れ、担当部門等を把握する。
・IT基盤(システム)が適切に構築、運用されているか確認する。

 

■海外拠点が評価対象になった場合
・不正の機会を減らす仕組みを整える。
・親会社が海外子会社に対し統制活動を積極的に行う。
・海外拠点とのやり取り・決算期のズレに伴うスケジュール管理を行う。

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