従来、内部監査の手法は実地監査が主流でしたが、新型コロナウィルスが蔓延したことを機に、リモート監査や書面監査が取り入れられるようになりました。リモート監査は、離れた場所にいる二者がWeb会議システムを活用し、遠隔で内部監査を行う手法です。書面監査は、アンケート形式で確認事項を送付し、運用状況や証跡を返答する形の監査です。
リモート監査も書面監査も、現地へ赴く必要がなく、移動時間や経費を節約できます。その中でも書面監査は、被監査部署からの回答で運用状況を監査するため、時間の制限がより少なく、効率的に監査を進めることができます。今回は、書面監査について、その概要からメリットとデメリット、監査計画の立案、監査実施における留意点を説明していきたいと思います。
書面監査の概要
書面監査は、遠隔地から対象拠点の動向を把握するとともに、対象拠点に対する牽制効果を発揮します。ここでは、どのような場合に書面監査が用いられているかを見てみましょう。
①海外拠点や政治が不安定で実地監査が困難な地域への監査
海外監査での長時間の移動や高額な移動費が発生しないため、監査資源の節約が可能になります。また、現地へ赴く必要がないため、政治情勢上、危険な地域に訪問することなく、監査を実施でき、安全性を確保できます。ただし、組織の体制が単一で、リスクが低い拠点が対象となります。ここで言うリスクが低い拠点は、内部統制の成熟度が高い組織を想定しています。
②緊急時に短時間で監査が必要な場合
親会社で不正行為が確認された場合、関係する会社でも、不正の兆候が無いかを早急に把握する必要があります。しかし、全ての関係先に出向き、確認するには多くの時間が必要です。また、多くの人員を関係する会社に一斉に送り込めば、対象拠点から警戒される可能性もあります。本来の目的を隠しつつ、書面監査を実施すれば、実地監査と比較して短時間で業務の運用状況を把握することができます。ただし、不正の兆候が確認された場合は、速やかに実地監査を計画、実施しなければなりません。
③実地監査において監査項目数が多い場合
一部の項目を書面監査で代替することで監査に要する時間を節約することができます。ただし、重要なリスクが想定される項目は、実地監査でも確認する必要があります。
④過去に監査を実施した時点から、統制に変化がない場合
統制に変化がない拠点では、前回監査時より統制が行きわたっている可能性が高く、リスクが高くないと判断できます。そういった場合、実地監査ではなく、書面監査にて対応することが考えられます。
書面監査が有効な場合と、実地監査が有効な場合を検討したうえで計画を立案し、実施することが重要です。
書面監査のメリットとデメリット
ここでは書面監査の概要を踏まえて、書面監査のメリットとデメリットについて触れていきたいと思います。実地監査と比較する形でメリットとデメリットを紹介していきたいと思います。
1メリット
(1)監査資源の節約が可能である
書面監査の場合は、アンケートを送付し、業務の運用状況や証跡を返答する形で行うため、実地監査と比較してコストを削減できること、時間的制約から解放されるというメリットがあります。
(2)対象拠点に対する牽制機能の強化につながる
実地監査の場合、予算や時間の関係上、毎年監査を実施することが困難な拠点もあります。そのような拠点に対して、ローテーションの隙間を埋めると同時に、牽制機能の強化につながります。
2デメリット
(1)組織体制が複雑な拠点や統制に大きな変更があった拠点の監査では実施が難しい
組織体制が複雑な拠点や統制に大きな変更があった拠点では、統制状況がどう変わったのかを把握する必要があります。それぞれの統制についてヒアリングし、回答に沿った統制が行われているかを証跡で詳細に検証しなければなりません。短時間で効率的に行うことが目的の書面監査よりは実地監査を実施する方がより適していると言えます。
(2)現地の業務遂行状況を閲覧できない
書面監査は、アンケートを送付し、業務の運用状況や証跡を返答する形で行うため、業務の遂行状況を現地で見ることができません。不正調査のように、本来の目的を隠してヒアリングを行ったり、eメールやパソコン解析、帳票類を収集する等、業務遂行状況を見分する必要がある場合は、実地監査を前提に監査計画を立てる必要があります。
書面監査のメリットとデメリットを考慮して、書面監査を実施するか、実地監査を実施するか選択することが重要です。
書面監査の監査計画
書面監査の計画でも、通常の監査計画と同じように、まず対象拠点を決め、対象項目を決めていきます。冒頭でも述べたように、書面監査の特徴は短時間で効率的に監査を行えることです。その点を踏まえて書面監査を実施するか、実地監査を実施するかを検討して計画を立てる必要があります。書面監査での監査計画を立てるときに考慮しなければならないことを説明します。
(1)対象拠点
組織体制が複雑な拠点や規模が大きい拠点では、監査に入る前に入念な予備調査を行う必要があります。体制や統制の仕組みを把握する際は、書面による質問だけでなく、インタビューにより、詳細を確認しなくてはなりません。このような拠点を監査するときは、実地監査を行うことを前提に監査計画を立てる必要があります。
(2)過去に監査を実施した時点から統制に大きな変化がないこと
過去に監査を実施したときから組織体制や統制に大きな変化があった拠点では、現状の組織体制や統制内容を正確に把握するために、入念な予備調査を行う必要があり、実地監査を行うことを前提に監査計画を立てる必要があります。過去に監査を実施した時点から統制に大きな変化がないという前提で、書面監査の計画を立てる必要があります。
(3)対象項目
書面監査の対象となり得るのは、その回答から業務の運用状況が適切か否かを判断できる項目です。現地往査でないと証跡が入手できなかったり、回答だけでは足りず、多くの証跡を検証する必要があると想定される項目は書面監査に適しているとは言えません。このような項目を監査するときは、実地監査を行うことを前提に監査計画を立てる必要があると言えます。
書面監査の特徴を考慮して、書面監査を実施するか、実地監査をを実施するか検討して計画を立てる必要があります。
書面監査の応用~Webツール監査の概要とポイント~
書面監査の応用としてWebツール監査というものが存在します。ここでは、Webツール監査とは何か、その特徴、実施するときの留意点を説明したいと思います。
(1)書面監査の一つとしてのWebツール監査
Webツール監査は、ITを活用した書面監査です。遠隔地から拠点の動向を把握するとともに、拠点に対する牽制効果を強化する手法です。被監査部署はIT機能を使ってアンケートに対する回答を記載し、監査室でIT機能を利用して結果の集計を行います。
(2)Webツール監査の特徴
Webツール監査は、IT機能を使ってアンケートに回答を記載し、IT機能を使って結果の集計を行います。アンケートに対して回答を選択するため、被監査部署の入力作業の軽減につながります。IT機能を使って結果を集計するため、集計ミスが減り、迅速に集計することも可能です。また、集計結果をデータで保存・蓄積しておけば、趨勢・傾向分析や過去の集計結果との比較も可能です。
(3)Webツール監査の回答者
Webツール監査で有効なデータを集めるには正確な回答を得なければなりません。通常、アンケートは被監査部署の代表者に送付し回答してもらうものです。しかしながら、部署全体を統括する代表者は多忙なことが多く、それぞれの業務の詳細まで把握できていない場合もあります。正確な回答のもと、より有効なデータを集めるために、それぞれの実務責任者にもアンケートを送付することを検討する必要があります。
Webツール監査の特徴を理解し、目的に合ったWebツールと対象者を検討することでより有効性の高い書面監査の実施につながります。
まとめ
有効な書面監査を実施するためには、書面監査の特徴を把握し、採用するべきです。書面監査・実地監査を組み合わせながら、監査計画を検討することも考えられます。また、書面監査の応用形としてのWebツール監査があります。書面監査を進める上で、Webツール監査の利用も選択肢として、検討してはいかがでしょうか。
■書面監査を用いることができる場合
☑海外拠点や政治が不安定で実地監査が困難な地域への監査
☑緊急時に短時間で監査が必要な場合
☑実地監査において監査項目数が多い場合
☑過去に監査を実施した時点から統制に大きな変化がない場合
■書面監査のメリットとデメリット
・メリット
☑監査資源の節約が可能になる
☑対象拠点に対する牽制機能の強化につながる
・デメリット
☑組織体制が複雑な拠点や統制に大きな変更があった拠点の監査では実施が難しい
☑現地の業務遂行状況を閲覧できない
■書面監査計画における留意点
☑対象拠点は組織体制が単一で規模が小さい拠点
☑過去に監査を実施した時点から統制に大きな変化がないこと
☑対象項目は現地往査を行わなくても証跡が入手できること
☑不正に関する調査については、現物の確認やヒアリング時の雰囲気等を確認することが重要なポイントになり、書面監査では限界があるため、実地往査を前提に監査計画を立てる必要がある
■書面監査の応用~Webツール監査の概要とポイント~
☑IT機能を使って回答を記載し、結果の集計を行う
☑回答入力作業の軽減と集計ミスの減少、迅速化に寄与
☑監査目的に合ったWebツールの選定
☑有効な回答を得るためのアンケート送付者の選定