監査テーマは様々ありますが、「稟議書」の監査は重要です。ご存知の通り稟議とは、発案者等より起案され、添付資料や各情報を基に責任者による承認を行う社内の意思決定手続です。この承認は、稟議の内容、金額等に応じて、直接の上司、担当部長、担当役員等複数名の承認を得ることもあり、それらは、社内における「職務権限規程」「稟議規程」により統制されています。
会社の意思決定プロセスですので、この統制状況の監査は非常に重要です。会社内の意思決定が記録され、適切な手続で実施されているか。「職務権限規程」通りの権限で承認されているか。意思決定するための資料等は添付されているか。稟議に関するルールに過不足がないか等色々な観点で監査します。今回のブログでは、「稟議監査」について解説いたします。
稟議監査の流れ
行き当たりばったりの監査をすると、非効率になったり抜け漏れが発生します。これを防止するためにも慎重に作戦を練り進めることが必要です。以下が監査の流れの例です。
①監査対象稟議の選定
社内には稟議と呼ばれる手続は色々な種類があると思います。まずはそれを洗い出します。また、申請と呼ばれる手続も範囲に入れることも考えられます。
全て稟議を監査することが望ましいですが、特に初めて実施する場合は、ある程度件数を絞って監査すべきです。
理由としては、初めて稟議監査するとほとんどの場合、色々問題が発見され、論点が多く出てしまい収拾しづらくなることがあります。
そのため、金額や会社にとって重要な稟議に絞って実施が望ましいです。
②稟議ルールの確認
監査対象になった稟議について職務権限規程、稟議規程や稟議マニュアル等で、現在会社で定められている稟議に関するルールを再確認します。内部監査人としては理解しているとは思いますが、再度読み込み理解を深めます。
③監査手続の作成
確認したルールについて、どのように監査すべきか検討し、監査手続を作成します。
例えば、「事後稟議の禁止」であれば、実行日より前に承認されているか。「必要な資料の添付」であれば、申請の内容にあった書類があるか。等です。
④監査の実施
対象の稟議や添付資料を収集し、検討した監査手続をもとに監査し、監査結果を記録します。
⑤疑問点の確認
監査を実施している中で発生した疑問点を申請者や承認者に対して文書で回答を求めたりインタビューして確認します。
⑥内部監査報告書の作成
個別の稟議に対してなのか、稟議全体の問題(仕組み等)なのか論点をまとめ内部監査報告書を作成します。
次回以降は今回の監査結果から、稟議についての会社のレベル考慮し、監査の範囲を変更したり、監査手続の見直しを実施してください。
稟議監査のポイント
稟議監査を実施する上でのポイントがあります。会社によってルールが異なるためすべての会社に当てはまりませんが、以下のポイントを押さえて監査を進めてください。
・監査対象の稟議について
範囲を広げ、件数をたくさん監査したいという気持ちになりますが、初めて稟議監査する場合、論点が多くなる可能性が高いため、現状のレベルを確認するという意味でも、まずは上位の役職者が承認する、会社にとって重要とされる稟議に絞って監査し、その結果をうけて次の監査の内容、範囲の検討をすることをお勧めします。
・ルールに基づいた監査とルールの過不足の確認
原則は、「職務権限規程」「稟議規程」通りに稟議が流れているかを確認します。そのほかに稟議に関わる明文化されているマニュアル等があればそれも参考にします。
ルールに準拠できているかどうかを確認することが監査上、大原則です。また、ルールがしっかり規定されておらず、申請者が迷ったり運用が何種類にもなっている場合、明文化の必要性やルール自体に問題があるということも指摘になることがあります。
・稟議漏れの確認方法
稟議申請だけ確認した場合、稟議申請漏れを発見することができません。例えば、新規取引先の稟議の漏れを確認するためには、会計システムの新規で登録されている取引先データを入手し、新規取引先が全て稟議申請されているか確認したり、契約書台帳にある契約書から契約書の締結稟議が全て稟議申請されているか確認します。稟議申請漏れは大きな問題のためぜひ実施してください。
・承認フローの確認
「職務権限規程」の準拠状況の確認は、適切な承認フローで承認されているか確認することになりますが、最近はワークフローシステムの導入されている会社が多いと思います。システムで申請が回っているから確認しなくてよいではなく、「職務権限表」通りに承認フローが設定されているかを確認する必要があります。例えば組織変更があったにも関わらず、承認フローの設定が変更されておらず、適切な承認ができていなかったということもよくある指摘です。
上記以外のポイントもありますが、論点が増え収拾がつかなくなりますので、初めて稟議監査においてはポイントを絞って監査すべきです。
稟議監査の指摘事例
会社によって稟議ルールは異なるため指摘事項も異なりますが、以下のような指摘が多いです。どれも会社の運営管理上大きな問題ですので指摘した上で、改善案を示してください。
①実行日後に稟議が申請されている。(事後稟議)
実行日後に申請されているいわゆる「事後稟議」と呼ばれる状況です。原則事前に承認された上で実行すべきです。ただ、実務上発生します。事後稟議になる理由としては、稟議申請することを忘れ遅くなったであったり、先方との調整に時間がかかり事前に稟議申請になってしまったなどがあります。規程に事後稟議は禁止であれば、指摘となります。事後稟議は認めるが、事前に上長に承認を得るであったり、稟議に事後稟議になってしまった理由が記載することとなっていれば、それを実施しているか確認します。
②承認までの時間がかかっている。
申請から承認まで日数が多くかかると、実行予定日に間に合わず、先方に迷惑や、会社側に損失がでる可能性もあります。もし、この状態が多発しているのであれば、権限の委譲の提案をすべきかもしれません。
③添付するべき資料が添付されていないにも関わらず承認されている。
稟議規程等に稟議の際は「関連資料を添付すること」としていることが多いですが、意志決定に関わる書類は承認する判断をするためにも添付すべきです。会社として承認を判断するための資料の添付がない場合や不十分であれば指摘すべきです。
④稟議承認されるべき事項について承認されていない。(稟議漏れ)
稟議漏れとは職務権限規程等で定められている申請すべき稟議申請が漏れている状態です。権限の持っていない従業員が勝手に実行したことになり非常に大きな問題です。監査方法としては上記のように会計システムや契約書台帳等から稟議申請すべき内容を抽出し、全ての稟議が申請・承認されているか確認することになります。
⑤稟議承認された当時の内容に変更があったにもかかわらず、再稟議を申請していない。
会社によりますが、一度承認された稟議で内容が変更になった場合は再稟議が必要であるというルールになっていることがあります。再稟議すべき変更があったにも関わらず再稟議されていなければ指摘することになります。監査方法としては稟議申請された金額や内容について社内情報(会計システム等)を確認し、承認された内容と乖離があるにもかかわらず再稟議がない場合、指摘となります。
上記は主な指摘事例ですが、ルールを確認し「ルールから逸脱していないか」「ルールに過不足がないか」という観点で監査してください。
稟議の継続的なモニタリング
稟議監査は期間を決めて実施することが多く、監査時、承認から時間が経過していたり、網羅的な確認ができていない状況となります。しかし、最近はワークフローシステムの導入がされており、パソコン等の画面上で稟議が確認できるため、承認後のフローに内部監査部門を入れることによって、リアルタイムな監査が可能です。時間が相当経過してからの確認だと、十分事実確認ができなかったり、問題の発見が遅れてしまう場合もあるため、リアルタイムに監査することが望ましいです。
しかしながら、今も内部監査部門が稟議のフローに入っているが確認していない方も多いのではないでしょうか。通常業務と並行しながら日々承認される稟議の確認をすることは難しいと思います。そこで、曜日と時間を決めて実施したり、金額や会社にとって重要性の高い稟議については毎日確認するなど、メリハリをつけると実施しやすくなるのでお勧めします。
稟議は会社として様々な意思決定を承認したことを残す非常に重要な業務です。ルールをしっかりと厳守し、適切に証跡を残しておくことが求められます。そのためにもルール違反や申請漏れは、常日頃からモニタリングして、指摘し少しずつ改善していくように促す必要があります。また、稟議のルール自体の問題や稟議を管轄している総務部門等の管理不足という事もありますので、個別の稟議申請だけではなく稟議全体のことを考えながら監査することが必要です。
まとめ
◆稟議監査の流れ
①監査対象の稟議の選定
②稟議のルールの確認
③監査手続の作成
④監査の実施
⑤疑問点の確認
⑥内部監査報告書の作成
◆稟議監査のポイント
・初めて稟議監査する場合は、論点が多くなる可能性があるため監査対象を絞って実施すべき。
・原則「職務権限規程」「稟議規程」通りに稟議が流れているかを確認する。
・稟議に関するルール過不足がないか確認する。
・申請済みの稟議だけではなく、稟議漏れがないか確認する。
・ワークフローシステムの導入されている場合は、「職務権限表」通りに承認フローが設定されているかを確認する。
◆稟議監査の指摘事例
①実行日後に稟議が申請されている。(事後稟議)
②承認までの時間がかかっている。
③添付するべき資料が添付されていないにも関わらず承認されている。
④稟議承認されるべき事項について承認されていない。(稟議漏れ)
⑤稟議承認された当時の内容に変更があったにもかかわらず、再稟議を申請していない。
◆稟議の継続的なモニタリング
定期的に稟議の監査をするという方法もあるが、ワークフローシステムが整備されている会社であれば、
稟議承認フローに内部監査部門を入れることによって、リアルタイムに監査が可能。
監査するタイミングを決めルーティンワークにしてメリハリをつけて実施。
個別の稟議申請だけではなく、稟議全体にも注目し稟議の管理体制やルールに過不足がないかも確認することが求められる。