内部監査・内部統制評価を行っている皆さんは、「質問」に苦労していませんでしょうか。
ヒアリング、インタビューなどとも呼ばれる質問は、内部監査・内部統制評価でしばしば用いられる主要な手続のひとつです。質疑応答の中で様々な情報を得られるばかりでなく、不備や不正などの端緒を掴むきっかけにもなります。そのため、この質問の成否が内部監査・内部統制評価の成否を左右する場合も少なくありません。
責任者や担当者の方から時折、質問があまり上手くいかない、特に聞きたいことを上手く聞き取ることができない、という悩みを耳にします。上手く聞き取れるようにするにはどうすればいいのでしょうか。
このコラムでは、内部監査・内部統制評価での聞き取り力を向上させるためのヒントをお伝えします。合わせて、リモート下での聞き取り力UPのポイントもお伝えします。
内部監査・内部統制評価は聞き取り力が大事
まず、なぜ聞き取り力を向上させると良いのかを確認するため、質問の役割と聞き取り力の重要性から見ていきます。
1.質問の役割
内部監査・内部統制評価で行われる質問は、監査証拠を集めるための主要な手段方法(監査技法)のひとつです。ヒアリング、インタビューなどとも呼ばれています。監査技法には他に、観察、検査、確認、再実施、分析的手続などもあります。何を調べるのかによって技法を使い分けています。
質問は、日常生活でも普通に行われるように、簡易で使い勝手の良い技法です。一方で、内容の確からしさや整合性などは、質問だけでは必ずしも確認し難いものです。そのため、他の技法と互いに補完関係にあります。質問以外の技法を併用することで確かな結果を得やすくなります。
質問の主な目的は、多くの場合、内部統制の状況その他の情報を収集し、次の段階で行う調査領域を明確にすることです。それゆえ、主に予備調査や往査の初期段階で実施されます。聞き取った内容は、次の段階に引き継がれるとともに、監査証拠にもなり得ます。
2.聞き取り力の重要性
質問は、話すことと聞くこととで構成されます。 このうち、聞くこと、聞き取り力が特に重要となります。情報収集が内部監査・内部統制評価での質問の主な目的であるためです。
聞き取り力があれば、必要十分な情報を収集でき、次の段階の調査領域をより明確化することができます。工数の削減にもつながりますし、不備や不正などの端緒を掴むきっかけにもなり得ます。
もちろん、話し方も相手の回答を引き出すために大事です。ただ、情報収集が目的であるため、聞き方がより重要です。聞くために話す、ととらえて聞き方を磨けば、話し方も自然と向上していきます。
聞き取り力をつけることで、話す力もついていくとともに、必要十分な情報を収集し内部監査・内部統制評価をより充実化させることができます。
聞き取り力をUPさせるには
聞き取り力を向上させるためには、準備・実行・後処理が重要です。ヒアリング実施中だけでなく、その前後も重要ということです。ひとつずつ見ていきます。
1.準備
目的の明確化、対象者の選定、ヒアリングシートの事前提示、事前の資料収集など、十分な準備を行います。
このうちヒアリングシートは、質問の広さ、深さ、順序などを明確化しヒアリング当日の実施手順書となるため、重要です。不正調査が主な目的でない限り、対象者に事前提示して回答や必要資料を準備してもらうと、当日もスムーズに進行します。
対象者は、目的に応じて選定します。部門長が妥当な場合もあれば、実務担当者が妥当な場合もあります。資料から容易に確認できる事柄は、前もって把握しておくようにします。
2.実行
ヒアリング実施中は、相手の目を見て聞き取るよう心掛け、アクティブリスニング、要約、相槌、ミラーリングなどの傾聴の手法を活用します。また、決めつけや否定・説得を行わないようにします。挨拶、服装、論点を逸らさない、単語ばかりを拾わない、沈黙を含めて遮らない、などにも留意します。
同時に、問題点・改善点の発見のため、共感的に対応しつつ批判的な目線をバランス良く持つことも必要です。非言語情報にも注意を払えば、より多くの情報を聞き取ることができます。相手が非協力的であるときは、誠実に対応し粛々と進行させることをお勧めします。その質問に関して問題が隠れている可能性があるため、他の技法も併用するのがいいでしょう。
実施中は特に、時間管理、そして資料との整合性確認が重要です。お互いの集中力を保ち相手から十分な情報を得るため、1問3分程度、全体でおおむね120分以内となるよう管理します。また、資料を提示して、質問の意図の明確化、回答促進、回答の真偽・精度の確認などにつなげます。
3.後処理
ヒアリング実施後は、忘れないうちに回答結果を取りまとめ、不明点・矛盾点の有無などを把握します。出来ればヒアリング当日に行うことをお勧めします。
このときも、資料との整合性確認が重要です。ヒアリング中は必ずしも確認に十分な時間を割くことができないためです。ここで齟齬が見つかったときは、ヒアリングの再実施、別の者へのヒアリングの実施、他の技法の併用などにより確認します。
リモートでの聞き取り力UP
リモートでの内部監査・内部統制評価に苦労している話もよく聞きます。そこで、リモートでの聞き取り力向上のヒントもお伝えします。
1.対面との相違点
リモートは、対面と異なり画面を通じたコミュニケーションです。そのため、相手の表情、息遣い、場の雰囲気などを感じにくくなります。参加者が多いなどで、画面に入り切らない参加者が生じる場合もあります。
加えて、PCや通信機器の性能などによって、声のトーン、表情などが対面よりも悪くまたは良く聞こえ、見えてしまう可能性があります。回線が途切れるなどで、コミュニケーションロスやスケジュール見直しが生じることもあります。
2.リモートでの注意点
リモートでは声と画面に頼るため、相手の話し方や声のトーン、強弱などに対面以上に注意を払います。また、画面全体に意識を向けて、相手の表情や態度の変化にも気を配ります。画面上の相手の目を見てしまうと、相手方の画面には正面を見ていないように映るため、カメラを見るように心掛けてください。
画面ありで参加するよう事前に依頼しましょう。情報収集に資するためです。場合によっては録画を活用します。聞き取った内容確認に加えて、表情なども事後に再確認できます。
画面の明るさや色、音量、音質は、違和感のないよう調整しておきます。参加者の中に対面で会っている人がいれば、その人を基準に画面や音声を調整します。または、どのような差異があるか把握して、他の人も含めて画面や声から受ける印象を頭の中で調整します。
回線トラブルなどに備え、複数の通信手段を事前に用意しておくことをお勧めします。回線が乱れるなどで聞き取りにくいときは、想像で補うことを避け、その場での再質問、またはメール等による事後的質問で対処します。トラブル時の対応を予め監査人の間で決めておくことも重要です。
それでも、対面に比べて場の雰囲気などを感じにくくなるため、把握できる情報量も少なくなりがちです。対面のとき以上に、十分な準備、他の技法の併用などをぜひ意識的に行ってください。
まとめ
■内部監査・内部統制評価は聞き取り力が大事
・内部監査・内部統制評価で行われる質問は、内部統制の状況その他の情報収集のため、主に予備調査や往査の初期段階で実施する。
・質問は、話すことと聞くこととで構成され、情報収集目的から聞き取りが特に重要となる。
・聞き取り力があれば、必要十分な情報を収集でき、次の段階で行う調査領域を明確にできるとともに、不備や不正などの端緒を掴むきっかけにもなる。
■聞き取り力をUPさせるには
・目的の明確化、対象者の選定、ヒアリングシートの事前提示、事前の資料収集など、十分な準備を行う。
・相手の目を見て聞き取るよう心掛け、アクティブリスニング、要約、相槌、ミラーリングなどの傾聴の手法を活用し、決めつけや否定・説得を行わない。
・相手が非協力的であるときは、誠実に対応し粛々と進めるとともに、その質問に関して問題が隠れている可能性があるため他の手段方法も併用する。
■リモートでの聞き取り力UP
・対面と異なり、リモートでは相手の表情、息遣い、場の雰囲気などを感じ難い。
・相手の話し方や声のトーン、強弱などに注意を払いつつ、画面全体に意識を向けて相手の表情や態度の変化にも気を配る。
・画面上の相手の目を見てしまうと相手方の画面には正面を見ていないように映るため、カメラを見るように心掛ける。