皆さんは実際に不正に直面したり、不正調査をしたことはありますか?
不正が発生すると、お金や物品の損失だけではなく、スタッフの社内処分、職場の雰囲気が悪くなるなどのデメリットしかありません。
主にサービス業の店舗で起きた事例が中心の内容となりますが、どのような不正が起きるのか、その防止策はどのようにすれば良いのかを事前に知るだけでも有用であると思います。
今回のブログでは、長年にわたる店舗監査の経験を基にサービス業の店舗における不正事例と不正防止について解説をします。
店舗における不正の種類
まず初めに店舗における不正の種類を確認して行きましょう。主にサービス業の店舗における代表的な不正の種類になりますが、「現金類」「物品」「不正な報告」の3つに分類されます。
①現金類
・開店準備をしようと金庫やレジを開けたら、営業準備金がそっくりなかった。
・店舗備品購入の小口現金精算で、私用の物品も含まれていた。
・レジで売上キャンセル処理を行い、差額分を着服した。
②物品
・商品をスタッフ通用口から勝手に持ち出した。
・店舗備品をスタッフが持ち帰り私物化。
・賞味期限の日付が近く、廃棄処分とすべき商品の持ち帰り。
③不正な報告
・ミスや不正を隠そうとして、商品棚卸で虚偽報告をした。
・閉店後に現金合計額が合わず、原因追究が面倒な理由からポケットマネーで補填してしまった。
・営業数値ノルマが達成できず、架空の売上報告。
これらは店舗で実際に起こった不正のごく一例です。特に店舗で発生する不正の多くが、現金や物品に関する不正になります。現金や物品が不正の対象となりやすい理由として、不正の当事者にとって非常に魅力的であることや犯行し易いことも挙げられます。監査初心者の担当者にとっては、接したことのない事例も多いかもしれません。「こんなことが起こるかも」と一度想定して監査に臨むと良いでしょう。
店舗における不正に至る要因例
それでは、店舗で実際に起こった事件例に着目して、不正に至る要因を確認して行きます。
正社員Aは会社から貸与された店舗の鍵とセキュリティカードを利用し、誰もいない早朝に入店した。金庫を解錠し、営業準備金の数百万円を持ち出した。警備会社から店舗へ確認の架電があったが、正社員Aは「忘れ物を取りに来た。誤った操作をした。」旨を伝え電話を切った。2週間後に窃盗で逮捕されたが、所持金は数万円しかなかった。初犯であったが金額が大きく、弁済の見込みもないとの理由で実刑判決となった。
店舗スタッフから信頼されている事務スタッフBは、会議で使用した会場使用代金3万円の偽造振込書をExcelで作成し、店舗で精算した。後日、先方より支払い督促の連絡が入り不正が発覚。内部監査室の不正調査で不正を認め、懲戒解雇となった。
この2つの事件は、実際にサービス業の店舗で起こった不正事例です。
不正に至る要因としては、下記のことが考えられます。
①スタッフ個人の事情が大きく影響
いずれのスタッフも遊興費がかさみ消費者金融から多額の借金を抱えていたり、結婚して小遣いが減ったことを不正に及んだ理由として述べていました。他の店舗スタッフに確認したところ、金銭の個人的貸し借りが頻繁に行われていたことも判明しました。
②不正が発覚しにくい環境
現金持出は数時間後に発覚していますが、不正出金の事例については2か月後に貸し会議室の運営会社から連絡を受けて発覚しています。事務スタッフBだけが主に小口現金や出金依頼書を管理していたため、不正が気付きにくい環境となっていました。
③責任者、承認者の確認や牽制が不十分
振込書をExcelで偽造していましたが、承認者である店長は証憑を十分確認せずに出金を承認していました。「仕事を真面目にしてくれるBの申請だから問題ないだろう」との思いから、確認が不十分になっていました。
不正対策を考えるうえでは、「何故不正が発生してしまったのか?」「不正を未然に防止できなかったのは何故か?」といった要因を個別具体的に調査することが重要になります。不正に至る要因を分析することで、会社が採るべき対策も明確になってくるのです。
店舗における不正防止のポイント(会社)
会社や職場の仲間を不正から守るためにも、会社ができることは多々あります。ここでは店舗における不正防止のポイント(会社)を確認して行きましょう。
①上長の確認の徹底を当たり前に行う。
店舗規模が大きくなるとスタッフの数も多くなり、スタッフからの申請や確認依頼が増えてきます。店長や店舗役職者は承認する機会もグッと増えてくるわけですが、しっかりと申請内容を確認しているでしょうか。私は現場経験が長かったのですが、ベテラン店長ほど領収書などの証憑を充分に確認せず(場合によっては見ずに)承認していたケースが多く見受けられました。ルーチン業務は捌けば楽なのかもしれませんが、スタッフを守るためにも上長のしっかりとした確認の徹底をお願いしたいですね。
②専属で単独の担当者を設けず、不正の機会を減らす。
こちらはニュースや新聞でよく見る横領や使い込みで経理担当者が逮捕された事件によくある事例です。会社の規模にもよりますが、経理担当者が一人の場合に多く発生しています。内部監査や税務調査で不正が発覚したり、私生活が派手で特命調査をしてみたら使い込みが発覚したなどの事例もあります。人事異動がなく同じ部署に長く在籍するベテランスタッフであることも傾向であると言えます。短期間であっても、専属で単独の担当者を設けないことも不正防止のポイントと言えます。
③検知、追究ができる環境を作る。
レジ金の取り扱いをイメージして欲しいのですが、「開店前の現金確認→中間引継ぎの現金確認→営業終了後の現金確認」といった運用をしている店舗が多いと思われます。これは現金誤差が発生した際に、原因を追究しやすくする仕組みでもあります。また、レジ担当者を最小限にすることで、誰が現金を扱っていたのかも明確化しやすくなるメリットもあります。事業規模が小さいとルールやマニュアル化が行われていないこともあり得ますが、検知や追究ができる仕組みや環境づくりも重要です。
④教育と不正の周知を図り、同様の不正を防止する。
「不正をしたら必ず明るみになる」ことを新規採用スタッフの研修で必ず取り扱うことも有効であると考えられます。不正のきっかけは、『つい出来心で』といった軽い気持ちから始まることがほとんどです。また、過去の不祥事を風化させないためにも、不祥事事例を社内共有し周知することで同様の不正防止に繋がります。ただし、詳細な手法までを共有してしまうと、残念ながら真似してしまうスタッフも過去に実在しました。取り扱う情報には十分な注意が求められます。
せっかくの仕組みがあっても普段から実施していないと意味がありません。店舗スタッフに限らず、内部監査の担当者も一度、自社の店舗監査における不正対策が充分であるか確認してみることをお勧めします。
店舗における不正防止のポイント(内部監査部門)
ここからは内部監査部門が貢献できる不正防止のポイントを確認していきます。
①必ず現金や商品等の実査を行う。
スケジュールが多忙で1日に複数店舗の往査や、時間の短縮を考えている企業様も多いと思われます。また、「前回確認したから今回は省略しよう」と考えることもあるでしょう。このような場合には、優先順位を付けて不正リスクの高い現金、転売可能な高額商品、たばこなどの嗜好品の実査を必ず実施することが重要です。監査人が確認している姿を店舗スタッフに見せることができれば、不正の牽制へと繋がります。
②内部監査の存在をしってもらうためにも、店舗スタッフとコミュニケーションを取る。
一般的に「監査人」に対してどのようなイメージを持つでしょうか。私は内部監査室に異動するまで、「怖い」「堅物」「突然やってくる」などのどちらかといえば負のイメージを勝手に抱いていました。そんな監査人へ店舗スタッフが本音を伝えてくれるとはとても考えにくいと思います。コロナ禍で往査の機会も減っていると考えられますが、店舗スタッフとコミュニケーションを取り、本音を引き出せる関係を構築して行きたいですね。
③プラスアルファの気付きができるようになる。
私が内部監査人として初めて店舗往査に臨んだときに、過度に緊張しすぎて何を行っているのか、ヒアリングで何を尋ねているのか分からなかった苦い思い出が有ります。皆さんも同じような経験をされているのではないでしょうか。慣れるまでは監査チェックリストの対応で精一杯かもしれません。慣れてきたらで良いのでプラスアルファの気付きを自己で蓄積してみてください。新たな不正に対処できるヒントになるでしょう。
④営業部の重点取り組みを把握する。
企業規模が大きくなると、各営業部ごとに営業方針やその時々の重点取り組みが異なることがあります。一例ではありますが、特定商品の販売促進キャンペーンのノルマなどが挙げられます。上司からのプレッシャーやスタッフの責任感から、やむを得ず不正に手を染めてしまうケースも少なからず存在します。無理なノルマが課せられていないかなどの視点で、営業部の重点取り組みを把握することも不正防止のポイントと言えます。
不正が発生してしまった場合には、当然ながら当事者のスタッフが責任を負うことになります。一方で不正が出来てしまう会社にも問題はあります。貴重な人財や会社の資産を守るためにも、経営者は勿論、内部監査部門の活躍が強く求められます。企業における不正を未然に防止するには、内部監査におけるモニタリング機能が非常に効果的です。この点を経営層とも共有のうえで店舗監査の不正対策強化に取り組んでみてはいかがでしょうか。
まとめ
■店舗における不正の種類
・現金や物品の着服・持出、経費の不正な支出、商品棚卸の虚偽報告などがある。
・場合によっては、複数のスタッフが関与していることもあるので注意が必要。
■店舗における不正に至る要因例
・スタッフ個人の事情が大きい(借金、結婚して小遣いが少なくなった等)。
・不正が発覚しにくい環境になっている(追究の機会が無い、たまたま持ち出すことが出来た、ミスを隠したい等)。
・責任者、承認者の確認や牽制が不十分になっている(上長が証憑を見ずに承認印を押す等)。
■店舗における不正防止のポイント(会社)
・上長の確認の徹底を当たり前に行う必要がある。
・専属で単独の担当者を設けず、機会を減らす必要がある。
・検知、追究ができる環境を作り出す必要がある。
・教育と不正の周知を図り、同様の不正を防止する。
■店舗における不正防止のポイント(内部監査部門)
・必ず現金や商品等の実査を行う。
・内部監査の存在を知ってもらうためにも、店舗スタッフとコミュニケーションを取る。
・監査チェックリスト以外のプラスアルファに気付けるようになる。
・営業部の重点取り組みを把握する。