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不正防止対策と内部監査~不正対策の方法論

2021年08月26日

 

過去から近年まで、不正についての報道は変わらず経常的にあるように思います。「自身の会社では起こらない。」「ニュースでの別世界の話である。」と考えていると、いつの日か自社でも同様の事象が起こりうる話だと感じます。
不正は企業に対して深刻な事態をもたらす時代となっているので、今回は改めて「不正に対してどのような対策が考えられるのか」「その効果はどうなのか」といった内容を、日本公認不正検査士協会(ACFE)が公開している2020年度版の「職業上の不正と濫用に関する国民への報告書」を参考にしながらみていきます。

 

不正について~よくある不正と発生要因~

よくある不正とは何か。ACFEが公開している2020年度版の「職業上の不正と濫用に関する国民への報告書」の「各業界で最も一般的な不正スキーム」のデータによると、「汚職」が一番多くあり、次に「請求書不正」「現金以外の資産の不正流用」「経費精算」「スキミング」などがあげられます。
ACFEによると不正は、「他人を欺くことを目的とした意図的な作為または不作為であり、結果として損失を被る被害者が発生し、不正実行犯が利得を得ること」と定義されており、上記は「資産の不正流用」「不正な報告」「汚職」の3つの不正に分類されます。

 

■資産の不正流用
従業員により行われることが多い。資産の流用を隠蔽するための会計記録や証憑書類の改ざん等が行われる。

 

■不正な報告
経営者による内部統制の無効化を伴うことが多く、会計記録や証憑書類の改ざん、意図的な会計基準の不適切な適用等により行われやすい。

 

■汚職
特定の貧困度、政治体制、文化特性などが原因で発生するのではなく、各要素が複雑に関連して起こる事が多い。

 

また、米国の組織犯罪研究者ドナルド・R・クレッシーが体系化した不正のトライアングルでは、不正の発生要因として「動機・プレッシャー」「機会」「正当化」の3つの要素が揃った時に不正は発生すると言われています。

 

よくある不正と発生要因を知っておくことで、不正の発見や防止に繋がります。不正対策の方法を知るうえで、まずはよくある不正と発生要因を把握することが重要です。

 

 

不正発見の手段と効果

不正を発見するためにはどのような手段があるのでしょうか。不正発見のための手段とその効果について考えてみたいと思います。ACFEの「不正発見手段の割合」という資料には、不正発見された際の手段とそれぞれの効果が記載されています。

 

まず、不正が起こった際のその発見の手段としては、通報、内部監査、マネジメントレビュー、勘定の照合、外部監査、書類の精査、監視/監督、法執行機関からの通知、IT統制、自白などがあります。実際に発見された手段の割合をみていくと、「通報」が43%、次いで「内部監査」が15%、「マネジメントレビュー」12%、「勘定の照合」と「外部監査」がそれぞれ4%となっています。
不正発見の手段は多くありますが、圧倒的に「通報」が多く、次いで「内部監査」となっています。このデータをみると不正の対策として、「内部通報制度」「内部監査」「マネジメントレビュー」の3つで全体の7割になりますので、特に有効であると言っても過言ではありません。

 

また、ACFEの調査によると不正対策を講じている企業とそうでない企業には差があり、対策を講じている企業では早期に発見することができており、損失額が低くあります。行動規範、内部監査部門、経営陣による財務諸表への宣誓、定期的な内部監査、手続、会計、取引のマネジメントレビューの不正対策において、「損失額と継続期間の双方で50%以上の減少が見られた」という結果も出ています。

 

このように不正対策を講じる、講じないで、大きく損失額や不正の早期発見について差が出ていますので、特に有効と考えられる「内部通報制度」「内部監査」「マネジメントレビュー」は、意識して講じておくことが良い施策だと言えます。

 

不正の防止に向けて~不正対策の方法論~

不正対策として企業が実施する内容はどのようなものがあるのでしょうか。ACFEの2020年度版「職業上の不正と濫用に関する国民への報告書」によれば、外部監査人による財務諸表監査、行動規範、内部監査、経営陣による財務諸表への宣誓、財務報告に係る内部統制の外部監査、マネジメントレビュー、内部通報制度などがあります。
その中でも、これまでに見てきたように不正防止の手段として圧倒的に効果が高いのは「内部通報制度」で、次いで「内部監査」「マネジメントレビュー」です。これらは、直接的に不正を発見する不正防止対策として有効であると考えられます。

 

その他に、不正の発見に直接関与はしなくとも、社内への意識喚起という点で重要な不正防止対策もあります。「行動規範」「経営陣による財務諸表への宣誓」は、正発見に直接関与するものではありませんが、不正防止の認識を高め、総体的な不正対策文化の基礎構築の助けとなる可能性があります。

 

また、過去10年を振り返ってみると不正対策にも変化があります。多くの組織が不正の脅威を深刻に受け止めており、ホットラインの設置や不正対策方針の検討、従業員向けの不正対策トレーニング、管理職・役員向けの不正対策トレーニングなどのリスク緩和に特化した対策に積極的に取り組んでいるようです。

 

昨今の不正の脅威を緩和するためには、直接的に発見できる不正防止対策と社内の意識喚起を行い、不正対策文化の基礎固めとなる不正防止対策をうまく併用することが重要であると考えます。

 

不正防止!~不正対策としての内部監査~

これまで見てきた中では、直結的に不正を発見できる不正防止対策として「内部通報制度」次いで、「内部監査」「マネジメントレビュー」が有効であるとしてきましたが、その中でも「内部監査」は有効で、必要とされる対策と考えます。何故「内部監査」が有効であり、必要なのでしょうか。不正対策として内部監査が必要とされる理由は、次の3つです。

 

①外部監査人の権限
”会計監査人には反面調査権や強制調査権がない!”
外部監査(財務諸表監査)の担い手である公認会計士は、不正摘発のための捜査権限を持ちません。このことから外部監査人は、不正ないしその兆候を発見できたとしても、企業ないし経営者に報告するに留まります。

 

②財務諸表監査の目的
”財務諸表監査は不正の発見や摘発が目的ではない!”
財務諸表監査の目的は、財務諸表の有効性を全体として保証することであり、重要性の乏しいものは、そもそも監査の対象となりません。このため重要性の乏しい不正行為は、その発見や摘発が行われません。

 

③財務諸表監査の限界
”財務諸表監査は汚職等による不正には無力である!”
財務諸表監査では、汚職等(製品事故、偽装、談合、個人情報の流出、長時間労働、36協定違反、パワハラ、不法投棄等)に無力です。汚職等の行為は帳簿等に証跡が残らず、財務諸表監査では発見されません。

 

このことから、不正に対する内部監査の重要性は非常に高くあります。つまり、経営者の任命を受けて監査を実施する内部監査人であれば、ある程度の強制力を持って調査できます。また、内部監査であれば重要性に縛られることなく監査することが可能です。
金額の大小に関係なく、不正は企業にとって大きな問題です。さらに、内部監査では、外部監査人が見ない領域こそ重視すべきであり、汚職対策といった任意のテーマを定めて社内をチェックすることが可能となります。

 

 

まとめ

■よくある不正と発生要因
・不正の中でも「汚職」が1番多くあり、次に「請求書不正」「現金以外の資産の不正流用」「経費精算」「スキミング」などがあげられる。
・発生要因としては「動機・プレッシャー」「機会」「正当化」の三つの要素が揃った時に発生する。
■不正発見の手段と効果
・不正発見の手段は、通報、内部監査、マネジメントレビュー、勘定の照合、外部監査、書類の精査、監視/監督、法執行機関からの通知、IT統制、自白などがある。
・不正発見の手段の割合は、通報による発見が43%と多く、次いで内部監査が15%、マネジメントレビューが12%と多くなっている。
・不正の対策として「内部通報制度」「内部監査」「マネジメントレビュー」は特に有効であると言える。
■不正対策の方法論
・不正対策の方法は、外部監査人による財務諸表監査、行動規範、内部監査部門、経営陣による財務諸表への宣誓、財務報告に係る内部統制の外部監査、マネジメントレビュー、内部通報制度などがある。
・直接的に不正を発見する不正防止対策と、不正発見に直接関与するものではないが、不正発見の認識を高める不正防止対策があり、うまく併用することが重要。
■不正対策としての内部監査
・「内部監査」は直結的に不正を発見できる不正対策として有効で、必要な手段として考えられる。
・内部監査が必要とされる理由は、「外部監査人の権限」「財務諸表監査の目的」「財務諸表監査の限界」の3つがある。

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