現在の内部監査部門の担当者は、どういった悩みを抱えているのでしょうか?
J-SOX内部統制報告制度が施行されて10年。施行当初とは、企業の環境も担当者の状況も大きく変わっています。
今回は、弊社が2018年3月に開催したセミナーのアンケートに基づき、J-SOX内部統制をめぐる課題について、内部監査部門担当者の声をお伝えします。
2018年、J-SOX内部統制を取り巻く現状
2018年は、内部統制報告制度が施行されてちょうど10年になります。
10年前は、ほとんどの上場企業が内部統制“構築”の真っ只中にあり、ITシステムの改変や規程類等の整備、3点セットの作成等に追われ、ようやく構築の目途が立ち、本番を迎えようとしていた時期かと思います。
それから10年。現在の内部統制報告制度をめぐる状況はどうなっているのでしょうか?
構築から2~3年といった時期には、運用の安定化を目指して粛々と活動していたかと思います。すなわち、内部統制の有効性を評価し、不備等が発生しないように注力していた時期です。
ところが施行から5~6年ほど経つと、ITシステムが更新される時期を迎えました。あるいは、新しい事業に参入する等の業務プロセスの変更が行われることが多くなりました。
ITや事業に変化が無かったとしても、評価担当者の退職や異動により、担当者が変わるような事が起きるようになりました。
内部統制報告制度においては、ITシステムや新規事業の改変があれば、その都度、内部統制の構築も行わなければなりません。
J-SOXは内部統制の構築と評価を循環的に繰り返して実施する制度なのです。
内部統制の【構築】をめぐる課題
内部統制の構築について、現在の担当者はどのような悩みを抱えているのでしょうか?
多くの上場企業では、すでに内部統制の構築は済んでおり、企業環境に変化が無い限り、内部統制の評価だけを行うことになります。
しかしながら、ITシステムを数年毎に更新する企業は珍しくありませんし、新規に上場する企業にとっては、上場の申請までに内部統制を構築しなければなりません。
弊社が、内部統制の構築についてアンケートを行ったところ、下記のような回答がありました。
■内部統制の構築に関する課題や要望
【第1位】 規程類等、ルールの整備が必要 27%
【第2位】 内部統制構築の進め方がわからない 22%
【第3位】 キーコントロールの選定方法がわからない 16%
【第4位】 評価チェックリストをどのように作成するのかわからない 16%
【第5位】 3点セットの作成を検討しているが人手が足りない 14%
【第6位】 内部統制構築にあたり、外部の活用を検討したい 6%
この結果によると、「規程類等、ルールの整備が必要」との回答が多いです。
また、新規に上場を目指す企業にとっては、そもそも「内部統制構築の進め方がわからない」であったり、「キーコントロールの選定方法がわからない」「評価チェックリストをどのように作成するのかわからない」といった課題も多いようです。また、対応できる人がいない・不足しているとの声もあります。
2018年においては、10年前とは異なり、内部統制の構築に関するセミナーもあまり無く、新しくJ-SOXを担当する者にとっては、J-SOXや内部統制を学習する場が極端に少なくなっています。
企業における評価スタッフの育成が難いことを表しているのかもしれません。
内部統制の【評価】をめぐる課題
それでは、内部統制の評価に対する課題や要望はどのようなものがあるでしょうか?
現在、多くの上場企業は内部統制の評価作業を中心に行っています。
内部統制の評価作業は、制度が存続する限り、毎年行わなければなりません。
現在の担当者は如何なる課題や要望を抱えているのでしょうか。
■内部統制評価に関する課題や要望
【第1位】 評価作業の負荷を減らし、効率化させたい 40%
【第2位】 内部統制評価の作業スタッフが足りない 19%
【第3位】 海外子会社の構築・評価が必要となり困っている 17%
【第4位】 システム更新等により、3点セット等の修正が必要 16%
【第5位】 異動・退職に伴う評価スタッフの補充 6%
【第6位】 全社統制、決算統制等、一部領域を評価してほしい 2%
担当者の4割近くが「評価作業の負荷を減らし、効率化させたい」と回答しています。
実に担当者の3人に1人が“評価の負担が高い”と悩んでいるのです。
また、「内部統制評価の作業スタッフが足りない」「異動・退職に伴う評価スタッフの補充」といった具合にヒトの問題を悩みとして挙げる声も多く、人手不足が顕著になっていることがわかります。
さらには、10年という期間が経過したことから、企業の環境変化を挙げる声も多く、「海外子会社の構築・評価が必要となり困っている」「システム更新等により、3点セット等の修正が必要」といった悩みを挙げる担当者もいます。
多くの企業では、人手不足や環境変化により、“内部監査部門の負担が大きくなっている”状況にあります。
評価作業を効率化させて負担を減らしたいというのが、現在の多くの企業の要望であるようです。
内部統制評価の効率化を進めるにあたって
最後に、内部統制評価の効率化についても考えてみたいと思います。
前述した通り、多くの企業は内部統制の評価を中心に行っており、共通する課題は評価作業の効率化です。
実際に多くの企業が取り組んでいますが、効率化を達成できている企業は決して多くはありません。
■内部統制評価の効率化に関する課題や要望
【第1位】 サンプリングする証憑が多い 17%
【第2位】 効率化の進め方がわからない 16%
【第3位】 業務プロセスのコントロールが多い 16%
【第4位】 現場部門から効率化の要請がある 15%
【第5位】 評価対象のプロセスが多い 13%
【第6位】 評価対象の拠点が多い 11%
【第7位】 評価調書の評価項目が多い 5%
【第8位】 内部統制評価のリソースが減る 4%
【第9位】 監査法人の同意が得られない 3%
評価効率化については、実に様々な悩みを複数挙げる担当者が多いです。
「評価対象の拠点が多い」といった大きな課題から、「評価対象のプロセスが多い」「業務プロセスのコントロールが多い」といった課題まであります。
評価作業は、拠点の数やプロセス、コントロールの数に比例して増加しますので、これらを削減しようとする試みは大切です。
ただ、「効率化の進め方がわからない」「監査法人の同意が得られない」と回答する担当者も多く、評価効率化のための道は前途多難な状況にあることも伺えます。
評価作業は、「“全体”から“部分”の効率化」へと進めていくことが大事であり、また、監査法人と適時適切に協議し、合意のうえで慎重に進めていく必要があります。
評価効率化は、現在のJ-SOXをめぐる共通の課題として認識できるようです。
内部監査部門に求められる役割
内部監査部門の役割や重要性は増しています。
10年前は、J-SOXの構築や評価だけに専念できる環境にあったかもしれませんが、現在では、J-SOX以外の業務監査の実施も強く求められています。
さらには、企業の規模に関係なく海外に進出する企業が増え、海外拠点のJ-SOX対応や海外監査の対応まで求められています。
また、企業不祥事が断続的に発生する中、不正防止に対する牽制機能として業務監査に対する期待も高まっています。
今後の内部監査部門は、内部統制評価を安定的かつ効率的に運用しつつ、効果的かつ円滑に業務監査を実施することが求められています。
まとめ
2018年、J-SOX内部統制を取り巻く現状
ITシステムや新規事業の改変があれば、その都度、内部統制の構築も行わなければならない。
★J-SOXは内部統制の【構築】と【評価】が循環的に繰り返される制度である。
内部統制の【構築】をめぐる課題
新しくJ-SOXを担当する者にとっては、J-SOXや内部統制を学習する場が少なくなっている。
★企業による内部統制評価スタッフの育成が難い状況にある。
内部統制の【評価】をめぐる課題
人手不足や海外事業進出等の環境変化により、内部監査部門の負担が大きくなっている。
★評価作業を効率化させて負担を減らしたいというのが、企業の要望である。
内部統制評価の効率化を進めるにあたって
評価作業は、「“全体”から“部分”の効率化」へと進めていくことが大事であり、
監査法人と適時適切に協議し、合意のうえで慎重に進めていかなければならない。
内部監査部門に求められる役割
今後の内部監査部門は、内部統制評価を安定的かつ効率的に運用しつつ、効果的かつ円滑に業務監査を実施することが求められている。