多くの会社の内部監査部門が抱える悩みとして、共通して言えることが「人材不足」です。
社内の限られた人員から内部監査人の確保を求められ、「内部統制や内部監査に精通していないが、内部監査人に任命された」といった事象が多発しています。内部監査人の中途採用も活発化している様ですが、そもそも経験者が限られており、また、年齢的に高齢の方が多いといった傾向があるため、経験があって、尚且つ長期に勤めてもらえる人材を探すのも一苦労されていると伺います。
その様な状況の中、最近では内部監査を専門の会社へアウトソーシングするという企業も増えています。
今回は内部監査のアウトソーシングのメリット・デメリットを踏まえ、そのうえで内部監査のアウトソーシングの是非、さらには利用する際の留意点について考えます。
内部監査のアウトソーシングとは
内部監査業務のアウトソーシングとは一体どの様な事ができるのか。まずは、「内部監査」と「アウトソーシング」について改めて整理してみます。
■内部監査
内部監査は、経営目的を達成するために企業内の一部署が自発的に実施する内部的なものです。
「内部的なもの」ですから、公認会計士等が法律に基づき実施する外部監査とは異なります。公認会計士等が行う外部監査は法定監査ですので、一定条件を満たせば、法律の下に監査が強制されます。
内部監査は、「経営目的を達成するために」実施しますので、範囲に制限がありません。法律で強制される財務諸表監査は、会計のエリアに限定されます。すなわち、企業の公表する財務諸表が一般に公正妥当と認められる会計基準に準拠して作成されているかを保証するための監査です。一方、内部監査にはそういった範囲の制限はなく、企業活動の全てが対象になります。企業の活動が法律や内規等の規準に準拠して行われているかを監査するものになります。
■アウトソーシング
“業務委託”や“外注”のことで、自社内で行っていた業務やビジネスプロセスを専門企業の外部に委託することを言います。
企業内部で行われている総務や経理といった業務、給与計算、データの入出力や処理などの業務を中心に外部に委託するケースが多いようです。
また、アウトソーシング先には、国内のほか海外も含まれ、システム開発や経理業務といった業務を海外に委託することもそれほど珍しくない時代になっています。
上記の様に、範囲の制限がなく、企業活動の全てが対象となる様な「内部監査」を、専門企業である外部に委託、「アウトソーシング」することはできるのでしょうか。
アウトソーシングのメリット・デメリット
一般的にアウトソーシングには次のメリットがあると考えられています。
■アウトソーシングのメリット
① コストメリット:内製より、外部委託する方が安い
② 経営資源の有効活用:コア業務(本業)への専念
③ ノウハウの補完:専門性の高い業務の補完
④ 業務スピードとクオリティの向上:内製より、スピードと質の向上が期待できる
この中で重要なのは①および②となります。
③については、必ずしも専門性が高い業務をアウトソーシングするとは言えず、むしろ専門性が低く、“誰にでもできる”ような業務の方が外部に委託しやすいという側面もあります。
④については、担当するコンサルタントの力量によってしまうケースもあり、逆にクオリティの担保が難しいというように言われる事もあります。この点は、アウトソーシングの活用の仕方や事前確認によって違ってくるのではないでしょうか。
アウトソーシングするメリットは、自社で対応するより、外部に委託する方がコストが安いからであり、その分の人的資源をコア業務に集中させ、本業に専念できる事にあると言えます。
一方で、アウトソーシングには、技術やノウハウ、経験といったものが社内に蓄積されない。などといったデメリットも指摘されており、この点が懸念事項となり、アウトソーシングに踏み切れない企業も多いようです。
■アウトソーシングのデメリット
①技術やノウハウ、経験といったものが社内に蓄積されない
②適正コストの判断が難しい
③クオリティの担保が難しい
この様に、アウトソーシングには一般的にメリット・デメリットがあると言われています。メリット・デメリットそれぞれの内容を把握したうえで、内部監査の是非について考えていきます。
内部監査アウトソーシングの是非
内部監査をアウトソーシングする是非について考えてみます。
実際に内部監査業務をアウトソーシングする企業は存在しますし、近年における内部監査の重要性の高まりの中、内部監査を外部に委託しようという動きが増えてきています。しかしながら、そういった動きの一方で、「そもそも内部監査を外部に委託しても良いのか?」といった声を聞くことも少なからずあります。
内部監査はアウトソーシングできるのでしょうか?今一度、アウトソーシングのメリットを考えてみたいと思います。
① コストメリット:内製より、外部委託する方が安い
第一に、アウトソーシングするメリットはコスト(価格)です。このコストには人件費だけでなく、教育や育成のコストも含まれます。内部監査人は相応の知識と経験を必要としますので、それに相応しい人件費、そして育成のためのコストと時間がかかります。アウトソーシングにより、これらのコストを削減することができます。
② 経営資源の有効活用:コア業務(本業)への専念
第二に、アウトソーシングするメリットは本業への専念です。外部委託をする事で、社内のリソースを本業に回すことができます。また、内部監査の範囲や対象が増加する傾向の中、新たに人を増やすことなく、安定的な監査体制を構築することができます。
③ ノウハウの補完:専門性の高い業務の補完
第三に、ノウハウや経験の補完です。内部監査は、相応のスキルと経験を必要とします。そういったスキルや経験を外部より調達できるというメリットがあります。
④ 業務スピードとクオリティの向上:内製より、スピードと質の向上が期待できる
プロに任せることで、社内の人材で内部監査を進めるよりも、スピード感を持ちながら、且つ、正確に内部監査を進めることが期待できます。
上記のメリットは、内部監査室における労働力の不足、技術の不足、予算の不足といった一般的な課題を補完しますので、内部監査部門でのアウトソーシングの導入は理にかなっており、内部監査は、「アウトソーシングに向いている業務」と言えるのではないでしょうか。
内部監査アウトソーシングの留意点
これまで紹介してきた様に、多くのメリットがあるアウトソーシングですが、アウトソーシングにはデメリットもあると言われています。それは、技術やノウハウ、経験といったものが社内に蓄積されないといった問題や、適正コストの判断や、クオリティの担保が難しいといった点です。
アウトソーシングには大事な留意点が3つあります。
それは『企画・分析機能は自社内に残す』、『適正価格の判断をする』、『プロジェクト体制・進め方の事前確認を行う』というものです。
まず、全てを丸投げするのではなく、企画・分析(なぜ?どうして?)といった業務を残し、外部委託業者と協力して業務を推進することにより、技術やノウハウ、経験が蓄積されないといった弊害は低減されるはずです。
また、1つの企業だけで検討を進めるのではなく、『適正価格を判断する』ためにも、見積りを複数社からとるという事も留意すべき点です。各社、どの様な業務・作業にどの程度の費用が想定されているのか、細かく確認した上で、自社で対応した場合とのコスト比較をしてみると、適正な価格が見えてくるのではないでしょうか。
品質を確保するためには、依頼先の企業や、担当するコンサルタントだけを確認するのではなく、『プロジェクトの体制や・進め方の事前確認』もしっかりと行う事が推奨されます。アウトソーシングをするにあたり、企業としての基盤がしっかりしているか、コンサルタントの経験や実績があるかといった点はもちろんですが、プロジェクト体制としてチームを組み、クオリティ担保の対策が取られているか、進め方に認識の違いがないかといった点まで十分に確認しましょう。
このように、留意点に十分注意して検討をすれば、「アウトソーシング」という選択肢は内部監査人の人手不足を解消するための良い手段となります。
まとめ
■内部監査のアウトソーシングとは
・内部監査:組織の内部の人間が行う監査のことで、業務上の不正の防止や、業務の効率化目的で実施する
・アウトソーシング:”業務委託”や”外注”のことで、自社内で行っていた業務やビジネスプロセスを専門企業の外部に委託することを言う
■アウトソーシングのメリット・デメリット
【アウトソーシングのメリット】
① コストメリット:内製より、外部委託する方が安い(育成コスト・時間的コスト)
② 経営資源の有効活用:コア業務(本業)への専念
③ ノウハウの補完:専門性の高い業務の補完
④ 業務スピードとクオリティの向上:内製より、スピードと質の向上が期待できる
【アウトソーシングのデメリット】
①技術やノウハウ、経験といったものが社内に蓄積されない
②適正コストの判断が難しい
③クオリティの担保が難しい
■内部監査アウトソーシングの是非
・内部監査部門でのアウトソーシングの導入は理にかなっており、「内部監査はアウトソーシングに向いている業務」と言える
■内部監査アウトソーシングの留意点
①企画・分析機能は自社内に残す
②適正価格の判断をする
③プロジェクト体制・進め方の事前確認を行う