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問題を抱えている業務を見つけるには?~業務棚卸の実践方法~

2021年03月23日

 

業務改善がうまく進まない企業の取り組みを見てみると、どの業務に問題があるのか明確になっていなかったり、間違った対策を選んでいるといったことがよくあります。業務改善は、業務の中のどこに問題があるのか、どのような問題なのかを明らかにし、適切な解決策を実施すれば必ず成功します。反対に、問題を抱えている業務がうまく見つけられないと、どんなに対策を練ったとしても改善の効果はほとんど得られません。
問題を抱えている業務を見つけるには、業務の棚卸(たなおろし)を行い、一覧化する必要があります。一覧化して他の業務と比較することで、問題を抱えている業務が浮き彫りになるからです。しかし、闇雲に業務を一覧化しても、1つ1つの業務の粒度(業務の大きさ)が違ってしまうと、適切に比較することができません。
今回は、業務改善の肝となる『業務棚卸』の実践方法をご紹介します。

 


業務棚卸の目的と留意点

『業務棚卸』は、業務を見える化(可視化)するための1つの手段で、システム導入や業務改善など、様々な局面で実施することがあります。業務可視化の手段として『業務フロー図』もありますが、今回のテーマである「問題を抱えている業務を見つける」目的で使用するには、適切ではありません。なぜなら、問題がどこにあるのか分からない状態で闇雲に業務フロー図を作っても、時間ばかりがかかってしまうからです。
「問題を抱えている業務」は、1つ1つの業務を比較することで、発見することが可能になりますが、ここで気を付けなければならないのが『業務の粒度』(業務の大きさ)です。業務の棚卸を行い、一覧化したところで1つ1つの業務の大きさがバラバラでは、適切に比較することができないからです。
例えば、AさんとBさんにエンジンの製造工程について、それぞれ棚卸表を記入してもらったところ、Aさんは「エンジンの組み立て(60時間)」、Bさんは「ガスケットの取り付け(15分)」という結果になったとします。この2つを比較すると、エンジンの組み立ての方が作業時間がかかっているという分析になりますが、果たしてこの分析は正しいのでしょうか?答えは『No』です。Aさんはエンジン全体の組み立てを1つの業務としているのに対し、Bさんはエンジンのパーツの取り付け作業を1つの業務としていますので、業務の大きさが全く違います。したがって、この2つを比較しても意味はありません。
製造工程では目に見えるモノ(製品)がありますので、違いはすぐに分かりますが、ホワイトカラーのように「情報」を扱う業務はモノが見えませんので、知らず知らずのうちに「エンジンとパーツを比較している」といったことが起こりえます。このような比較をしても、適切な分析を行うことができませんので、棚卸の際は『業務の粒度』に注意する必要があります。

 

業務棚卸の進め方

業務可視化の手段の1つである業務棚卸ですが、実務担当者に業務を棚卸表に記載してもらい、それらを統合して終わりという訳ではありません。なぜなら、1つ1つの業務の粒度が異なってしまい、比較ができない(=問題を抱える業務を抽出できない)からです。業務棚卸の手順は以下の通りとなります。

 

1.棚卸の実施範囲を決定する
棚卸を実施する範囲を決めます。範囲の決め方として、①業務・組織、②作業の種類といった視点があります。①はイメージしやすいと思いますので、ここでの説明は省略しますが、②の「作業の種類」の例としては、「システムへのデータ入力」、「システムからのデータ抽出」、「データ加工」、「データ分析」といったものが挙げられます。①や②の2つの視点で実施範囲を決定すると効果的です。
2.業務棚卸のフォーマット・ルールを作成する
実務担当者に記載してもらうための棚卸表のフォーマットとルールを作成します。フォーマットの項目としては、「業務分類」、「業務名」、「業務内容」、「インプット」、「アウトプット」、「実施頻度」、「作業時間」を設けることが一般的です。ルールについては、「担当している業務のみを記載する」、「担当している業務を全て記載する」といったものが挙げられます。
3.棚卸の実施(業務棚卸表の配布、記入、回収)
作成した棚卸表とルールを実務担当者に配布し、担当している業務を記入してもらいます。また、記入が完了した棚卸表を回収します。
4.業務の一覧化~不明点の抽出
回収した棚卸表を1つにまとめ、業務一覧表を作成します。また、記入漏れや粒度の異なる業務などは後でヒアリングが必要になりますので、あらかじめマーキングしておきます。
5.担当者へのヒアリング~業務一覧表の最終化
不明点を担当者に確認(ヒアリング)し、業務一覧表を最終化します。ヒアリングは1回で済ますのではなく、短い時間で複数回実施することがポイントです。

 

このように、業務の棚卸は5つのステップで進め、4の不明点の抽出から5の最終化を何回か繰り返し、一覧表を作り上げていくことになります。

 

業務の粒度の揃えかた

業務を一覧化したところで、1つ1つの業務の粒度が違うと適切な比較ができません。『業務の粒度を揃える』というと、難しそうに聞こえるかもしれませんが、ちょっとしたコツである程度、業務の粒度を揃えたり、大きさを判断することが可能になります。

 

1.業務の大分類・中分類といったカテゴリを最初に決めておく
業務棚卸表の大分類、中分類といったカテゴリを自由に記載させると、業務の粒度はバラバラになります。しかし、大分類や中分類といったカテゴリをあらかじめ決めておき、選択させるようにすると、入力者は必然的にこれらの分類よりも細かい単位で記載しようとします。大分類や中分類といったカテゴリをどのように決めたらよいか分からないという場合は、社内規程(業務分掌など)を参考にしたり、Webで一般的な業務の種類を検索するといった方法で確認するとよいでしょう。

 

2.作業時間を目安に業務の粒度を揃える
業務棚卸の際に1行あたりに記載する業務の作業時間目安を伝えておくことで、粒度をある程度揃えることが可能です。例えば、「1行(業務1つ)あたり、最大4時間を目安に記載してください」とあらかじめルールを設定することで、4時間以内の業務が抽出できるようになります。

 

3.インプット・アウトプットで業務の粒度を判断する
業務には、必ずインプットとアウトプットが存在します。『業務の基本要素』とも呼ばれていますが、業務は何かしらの材料(インプット)をもとに処理(プロセス)が始まり、その処理の結果として成果物(アウトプット)が生まれます。このインプットやアウトプットが存在しない業務はありません。このインプットやアウトプットの量を見て、粒度を判断することができます。

 

このように、業務のカテゴリや、作業時間、インプット/アウトプットといった3つの着眼点を使うことで、業務の大きさを合わせることが可能になるのです。

 

問題を抱える業務の抽出方法

業務を一覧化し、1つ1つの業務の粒度が揃ったところで、問題を抽出するための追加情報を入手します。追加情報は、「実施日時」、「マニュアルの有無」、「業務担当者の役職」などといったものです。業務の棚卸を行うときにこれらの情報を一緒に入手しようとする方もいますが、業務の粒度を揃える時に業務の統合・分割だけでなく、追加情報も一緒に対応しなければなりません。追加で取得した情報の分だけ余計に手間がかかってしまいますので、追加情報の入手は粒度を揃えてから実施することをお勧めします。
取得した追加情報を使い、問題を抱えている業務を抽出します。それぞれの項目の使い方と改善の目的は以下の通りです。

 

作業時間: 時間のかかっている業務を抽出 → 業務効率化を進めたい場合に有効
実施日時: 実施日時が重複している業務を抽出 → 業務平準化を進めたい場合に有効
マニュアルの有無: マニュアルのない業務を抽出 → 業務標準化を進めたい場合に有効
担当者の役職: 高い役職者の行っている業務を抽出 → 間接コスト削減を進めたい場合に有効

 

このように、作業時間を削減したい(業務を効率化したい)といった目的であれば、『作業時間』が大きい業務を抽出し、改善することで目的を達成することができます。同じように、繁忙期、閑散期の波をなくしたい(業務を平準化したい)という目的であれば、実施日時を入手します。実施日が重なる業務があれば、その業務を抽出し、実施日の変更といった対応を行えば、目的が達成されます。

 

業務の棚卸で何を実現したいのか(効率化?平準化?標準化?間接コスト削減?)によって、 分析する情報は異なりますので、目的を定めたうえで対応する項目を分析すると、問題を明確にすることが可能になります。ただし、1つ1つの業務の大きさが違う場合、違う大きさの業務を比べても、適切な分析はできません。1つ1つの粒度の揃った業務一覧表を作成し、効率化や平準化といった目的に合わせた情報を取得・分析することで、効果の高い業務改善が進められるようになるのです。

 

 

まとめ

■業務棚卸の目的と留意点
・「問題を抱えている業務」を見つける目的で業務可視化を進める場合、業務フロー図の作成ではなく、業務の棚卸(業務一覧表の作成)を行う。
・業務の一覧化によって1つ1つの業務の比較が可能になるが、大きさ(粒度)が異なる業務を比較しても適切な分析ができないため、棚卸の際は『業務の粒度』に注意する必要がある。

 

■業務棚卸の進め方
・業務の棚卸は、①実施範囲の決定、②フォーマット・ルールの作成、③棚卸の実施、④一覧化~不明点抽出、⑤ヒアリング~最終化の5つのステップで進める。
・担当者へのヒアリングは、長時間かけて1回で済ますのではなく、短い時間で複数回実施するほうが効率的である。

 

■業務の粒度の揃えかた
・業務の大分類、中分類といった「業務のカテゴリ」は棚卸前に決めておき、担当者には選択させるようにする。
・業務1つ(棚卸表の1行)あたりの「作業時間」の目安を伝えることで、粒度の均一化を図ることができる。
・業務の「インプット」、「アウトプット」のボリュームをもとに業務の粒度を判断する。

 

■問題を抱える業務の抽出方法
・分析に必要な情報は業務の粒度を整えた後で入手すると効率的である。
・目的(効率化、平準化、標準化、間接コスト削減など)に応じて入手する情報(作業時間、実施日時、マニュアルの有無、担当者の役職)は異なる。

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