連結財務諸表作成における税効果会計は、個別財務諸表の一時差異等に関する税効果会計を適用した後、連結財務諸表の作成手続において、連結財務諸表固有の一時差異に関する税金の額を適正に期間配分する手続です。連結財務諸表は、親会社と子会社の個別財務諸表を単純合算したうえで、連結上で不要となる項目を消去したり、必要となる調整を行うことで作成しますが、必要となる調整の中でも連結税効果の仕訳は非常に重要な項目の一つです。税効果会計を理解するためには、会計だけでなく税金計算の知識も必要になる難解な論点ですので、苦手としている方も多いのではないでしょうか。
今回は、連結税効果会計の基本的な内容をわかりやすくお伝えします。
連結財務諸表作成における税効果会計とは
連結財務諸表は、親会社と子会社の個別財務諸表を単純合算した後、連結上不要となる項目の消去や必要な調整の連結仕訳を反映させることによって作成します。連結仕訳は、企業グループ内の取引で発生した債権・債務や損益を消去するといった仕訳で、連結税効果会計の仕訳も、連結上調整が必要となる項目の一つになります。
単純合算する親会社や子会社の個別財務諸表には、既に税効果会計が適用されているのにもかかわらず、なぜ連結財務諸表を作成するうえで、税効果会計の仕訳を行う必要があるのでしょうか?確かに個別財務諸表を作成する際に税効果会計を適用していれば、単純合算する時点では、個別財務諸表上の利益と税金費用は合理的に対応しています。しかし、連結上の利益(資産・負債)に影響を及ぼすような仕訳を行った場合、連結上の利益と税金費用が合理的に対応しなくなります。そのため、連結上の利益(資産・負債)への影響額が連結財務諸表固有の一時差異に該当する場合に、連結手続上の税効果に関する仕訳を行い、繰延税金資産と繰延税金負債を計上する必要があります。
連結財務諸表固有の一時差異の具体例としては、のちほど詳しく説明する①資本連結に際して発生する子会社の資産および負債の時価評価による評価差額②同一グループ会社間の取引から生じる未実現損益の消去額③同一グループ会社間の債権債務の相殺消去による貸倒引当金の減額修正額などがあります。
このように、連結仕訳によって整合性が取れなくなってしまった利益と税金費用を調整するため、連結税効果の仕訳を行い繰延税金資産や繰延税金負債を計上する仕訳が必要になるのです。
資本連結に関する税効果会計
資本連結は、親会社が子会社を新たに連結する際、親会社の投資額と子会社の資本(純資産)額を相殺する仕訳です。親会社の貸借対照表(B/S)で資産として計上されている「子会社株式(親会社の子会社に対する投資)」とこれに対応する子会社のB/Sに計上されている「資本(純資産)勘定」は、企業グループという観点から見れば、グループ内部の資金移動にすぎないため、連結上相殺します。
この資本連結仕訳を行う際、子会社の資産と負債を支配獲得日の時価で評価しなければなりません。時価と簿価が一致しない場合、連結上で簿価を時価に直す仕訳が必要となります。
例えば、子会社が保有する土地(簿価2,000万円)の支配獲得日における時価が3,000万円だった場合、連結上借方で「土地」(B/S)、貸方で「評価差額」(B/S)を1,000万円計上します。この「評価差額」は、B/Sの資本(純資産)として処理します。
将来、この土地を子会社が3,000万円で売却したとすると、連結上土地の簿価は3,000万円になっていますので、売却益は発生しません。しかし、子会社の個別財務諸表では土地は2,000万円で計上されているため、1,000万円の売却益が発生します。そして、借方で「法人税、住民税及び事業税」(P/L)、貸方で「未払法人税等」(B/S)を300万円(法定実効税率を30%と仮定)計上することになります。
しかし、この300万円は連結上期間対応していない税金費用になるので、借方で「評価差額」(B/S)、貸方で「繰延税金負債」(B/S)を300万円計上しなければなりません。この場合、当期はまだ子会社で「法人税、住民税及び事業税」を計上しておらず、連結上税金費用を調整しなくていいので、「繰延税金負債」の相手勘定として、通常の「法人税等調整額」ではなく「評価差額」を使用します。このの例とは逆で土地の時価が簿価を下回る場合は、連結上借方で「評価差額」(B/S)、貸方で「土地」(B/S)を計上し、それに対応する税効果について、借方で「繰延税金資産」(B/S)、貸方で「評価差額」(B/S)を計上します。
このように、資本連結においては、子会社の資産および負債を親会社による支配獲得日の時価で評価し、連結上期間対応がずれる税金費用を「繰延税金資産(もしくは繰延税金負債)」勘定と「評価差額」勘定を使用して調整することになります。
未実現損益の消去に関する税効果会計
未実現損益とは、同じグループ会社間で売買された資産に含まれている損益のことです(期末時点でグループ内に留まっている資産のみ)。企業グループ外部へ資産を売却できるまでは、その損益が実現しているとは言えないので、連結上消去しなければなりません。未実現損益の消去仕訳には、棚卸資産に含まれるもの、土地などの非償却性資産に含まれるもの、建物などの償却性資産に含まれるものがあります。基本的な仕訳の形としては、利益を消去する際は借方がP/L科目、貸方がB/S科目となり、利益が実現した時にその反対仕訳を行います。
例えば、親会社が100万円の棚卸資産を150万円で子会社に売却し、子会社がその棚卸資産を期末時点で保有しているケースを考えてみましょう(親会社の法定実効税率は30%と仮定)。親会社のP/Lではその売却益として50万円計上されて、その利益に課税されるため、「法人税、住民税及び事業税」(P/L)15万円もあわせて計上されます。
しかし、企業グループという観点で見ると、当期末においてはまだグループ外部へ棚卸資産が売却されておらず、利益が実現していません。したがって、連結上借方で「売上原価」(P/L)、貸方で「棚卸資産」(B/S)を50万円計上することで、その利益を消去する必要があります。連結上あるべき金額と比べると、親会社が利益を乗せた分だけ在庫の金額が多く、その分売上原価が少なくなっているからです。
この未実現利益の消去仕訳に伴い、連結上の利益が減少しますので、それに対応する税金費用も減少させる必要があり、貸方で「法人税等調整額」(P/L)、相手勘定として「繰延税金資産」(B/S)を15万円計上します。
なお、未実現損失については応用論点になりますので詳しい説明は割愛しますが、原則消去しない点にご注意ください。
貸倒引当金に関する税効果会計
企業グループ内の会社に対して保有する債権の貸倒引当金は、連結手続上債権債務を相殺消去する際、同時に取り消す必要があります。貸倒引当金を減額することで、個別上の利益と連結上の利益に認識期間のずれが生じるため、税金費用を調整しなければなりません。
親会社が子会社に対する売掛金を保有し、それに貸倒引当金を400万円設定しているケースを考えてみましょう。この場合、親会社が保有している債権は、企業グループ内の取引の結果発生したものになりますので、連結上は相殺消去の対象となります。同じように貸倒引当金についても取り消す必要があり、連結上借方で「貸倒引当金」(B/S)、貸方で「貸倒引当金繰入額」(P/L)を400万円計上します。この貸倒引当金について税務上損金算入が認められる場合、親会社の法定実効税率が30%だとすると、借方で「法人税等調整額」(P/L)を120万円、貸方で「繰延税金負債」(B/S)を同額計上します。親会社の税金支払額が減っていますが、連結上その貸倒引当金繰入額が消去されるからです。
もし、税務上損金算入が認められない場合は、親会社が個別財務諸表において、「繰延税金資産」(B/S)を120万円計上しているはずです。したがって、連結上貸倒引当金が取り消されることで、その繰延税金資産を計上する必要がなくなりますので、借方で「法人税等調整額」を120万円、貸方で「繰延税金資産」を同額計上することで繰延税金資産を取り消します。
このように貸倒引当金の調整に伴う税効果会計の仕訳は、相手のグループ会社に対する貸倒引当金が税務上損金算入できれば、連結上「法人税等調整額」の相手勘定は「繰延税金負債」、税務上損金算入できなければ「繰延税金資産」となります。
連結税効果の仕訳は、連結仕訳の中でも難易度の高い応用的な仕訳ですので、最初は難しく感じるかもしれません。最終的には連結仕訳の意味や理屈を理解できることが望ましいですが、いきなりすべての仕訳の意味や理屈を理解するのは難しいと思いますので、最初はあまり深く考えずに借方の科目が何で、貸方の科目が何といった形から覚えるといった方法が効果的です。
まとめ
■連結財務諸表作成における税効果会計とは
連結上、利益(資産・負債)に影響を及ぼすような仕訳を行った際、その仕訳だけでは連結上の利益と税金費用が合理的に対応しなくなってしまう。このため、連結上の利益(資産・負債)への影響額が連結財務諸表固有の一時差異に該当する場合に、連結税効果の仕訳を行い、繰延税金資産や繰延税金負債を計上する。
■資本連結に関する税効果会計
資本連結は、親会社が子会社を新たに連結する際、親会社の投資額と子会社の資本(純資産)額を相殺する仕訳。子会社の資産と負債を親会社による支配獲得日の時価で評価し、連結上期間対応がずれる税金費用を「繰延税金資産(もしくは繰延税金負債)」勘定と「評価差額」勘定を使用して調整する。
■未実現損益の消去に関する税効果会計
未実現損益は、同じグループ会社間で売買され、かつ期末時点でグループ内に留まっている資産に含まれている損益。企業グループ外部へ資産を売却できるまでは、その損益が実現しているとは言えないので、連結上消去が必要。未実現利益の消去により連結上の利益が減少し、それに対応する税金費用を調整するため、連結上借方で「繰延税金資産」(B/S)、貸方で「法人税等調整額」(P/L)を計上する。
■貸倒引当金に関する税効果会計
企業グループ内の会社に対して保有する債権の貸倒引当金は、連結手続上債権債務を相殺消去する際、同時に取り消す必要がある。貸倒引当金を減額することで、個別上の利益と連結上の利益に認識期間のずれが生じるため、税金費用を調整する。貸倒引当金の調整に伴う税効果会計の仕訳は、「法人税等調整額」と相手科目は「繰延税金負債」(税務上損金算入ができる場合)、税務上損金算入ができなければ「繰延税金資産」となる。