内部監査の重要性の高まりを受けて、内部監査の教育・育成を強化する企業が増えています。
内部監査の学習を進める中で、内部監査について誤解してしまうケースが多々あり、特に内部監査の初学者が“陥りやすい内部監査の穴”があります。
今回は、内部監査の初学者が陥りやすい内部監査の誤解について解説します。
監査とは? 内部監査とは何か?
監査と言うと、一般的には、公認会計士が行う財務諸表監査をイメージする人が多いようです。
書籍等を検索してみても、財務諸表監査の良本は数多くありますが、内部監査の書籍となると、まだ数も少なく、内容が充実しているものも少ないようです。
そもそも監査とは?内部監査とは何なのでしょうか?
これから内部監査を始めようとする人は、まず監査ないし内部監査の定義や役割を正しく理解したいものです。
監査…法令や社内規程等に照らして、業務が規程等に則っているかどうか検証し、その証拠に基づいて、監査対象の有効性を利害関係者に保証すること
ここには2つのポイントがあります。
一つは、社内規程等があるかどうかです。
業務を遂行するために必要な規程やマニュアルが漏れなく整備されているかです。
もう一つは、業務が規程等に則っているかどうかです。
整備された規程やマニュアル通りに業務を運用しているかどうかです。
内部監査の仕事は、この整備状況と運用状況をチェックすることです。
まず、この点を正しく理解する必要があります。
内部統制の仕組みとしての内部監査
内部監査は、経営者が企業内に設けた仕組みです。
この意味で、内部監査は、内部統制の仕組みの一つと言えます。
内部統制…内部統制の目的が達成されているとの合理的な保証を得るために、業務に組み込まれ、組織内の全ての者によって遂行されるプロセス(仕組み)をいう。
ここで、内部統制の目的から内部監査の目的を考えてみたいと思います。
内部統制の目的は、
①業務の有効性および効率性②財務報告の信頼性③法令等の遵守④資産の保全
の4つが一般に掲げられています。
この4つの目的が、そのまま内部監査の目的にも当てはまる訳ですが、ここで一つ問題提起したいのが、“業務の有効性および効率性”についてです。
業務の有効性および効率性とは、経営者が会社を存続・成長させるために社内に設けた業績を上げるための仕組みです。
そこには、業績を上げるための最良な方法があるのが理想です。
しかしながら、内部監査の視点から考えると、この有効性は、最良な仕事の進め方という意味ではなく、“規程に従った仕事のやり方”という意味になります。
誤解を恐れずに言えば、最良ではなくても、効率の悪い間違ったやり方をしていたとしても、規程通りに仕事をしていれば、監査上、それは有効だということです。
内部監査は、業務の適否(効果や効率)を判断する仕事ではありません。
業務が規程通りに行われているかどうかをチェックする仕事であり、この点が、内部監査を実施する上で非常に重要なポイントです。
陥りがちな内部監査の落し穴~よくある内部統制の誤解
“業務の有効性・効率性”という言葉が内部監査に対する誤解を生みます。
“内部監査の落し穴”とも呼ぶべきもので、そこには2つの誤解があります。
■内部監査に業務知識は必要なのか?(業務に精通していないとダメか?)
内部監査をする上で、監査対象のことを知る必要があるのは当然です。
監査対象となる部門や子会社がどういった業務や業態なのか知ることは当然必要でしょう。
しかしながら、監査対象となる部門や子会社の業務・業種に精通する必要はありません。
内部監査は、業務の有効性(効果や効率等)をチェックするものではありません。業務の準拠性をチェックするものです。
その部門や子会社に必要な規程があるかどうか、規程通りに仕事をしているかどうかをチェックするのが監査なのです。
仮に業務に精通していなければ監査が実施できないというのであれば、監査を担える担当者はごく僅かな人間に限られてしまいます。
監査範囲がますます拡大する中、そのような人材を確保するのは至難の業です。(全ての業務に精通している人間など“皆無”と言っても良いでしょう)
“業務を熟知していないとダメ”と括ってしまうことが、内部監査における1つ目の誤解です。
そして、この誤解が内部監査に携わる人のハードルを著しく上げています。
■内部監査に専門知識は必要なのか?(専門知識がないどダメか?)
内部監査には、会計や労務、法務、さらにはIT・情報セキュリティ等、様々な知識が要求される局面が多いです。
経理部門を監査する際、全く会計知識がないよりはあった方が良いですし、人事部門の監査をするのに、労務知識があった方が良いです。
しかしながら、会計や労務、法務、IT等の深い専門知識を身につける必要はありません。
内部監査は、業務の準拠性をチェックするものです。
業務を有効にするべく(成果や効率を上げるために)、規程やマニュアルを作るのは、その担当部署の責任・仕事です。
そして、規程通りに仕事を遂行させるのも、その担当部署の責任です。
ここに内部監査における2つ目の誤解があります。
内部監査は、監査対象となる部署の「整備」および「運用」状況を監査するのです。
例えば、在庫の実在性を確認するため、内部監査部門が実査を行うケースがありますが、あまり効果的とは言えません。
不正等への“抑止力”としての効果を否定するものではありませんが、必要以上に時間をかけて監査するのには賛成できません。
現物管理の仕組みを設けて運用するのは、担当部署の責任・仕事であり、内部監査部門は、その担当部署の資産の保全状況をチェックするに過ぎません。
“正しい”内部監査実施のために~内部監査は難しくない!
内部監査は、規程等の「整備」「運用」状況をチェックするものです。
“経営監査”なる言葉もあり、業務の成果や効率を上げるための監査もありますし、“テーマ監査”と称して、深い専門知識を要求されるような監査を実施することもあります。
しかしながら、一般に内部監査と言えば、いわゆる“アシュアランス活動(監視)”のことを指します。
☑規程・マニュアルがあるか
☑規程・マニュアルに基づいて業務を行っているか
がアシュアランス監査のポイントです。
“内部監査は難しい”、“相当な経験がないとできない”、“専門知識がないと無理”は、すべて誤解です。
内部監査人に求められるのは、業務知識やIT等の専門知識ではなく、『監査のプロ』としての専門スキルです。
規程等の整備状況をチェックする際には、必要な規程が揃っているかという網羅性を確認するとともに、規程の有効性、つまり規程の中に統制の仕組みがあるかどうかについて、実際の規程を“査閲”して確認します。
規程の中に承認ルートや決裁者についての記載があるかどうかを監査のプロとしてチェックすることが求められます。
規程の運用状況をチェックするにしても、実務担当者が規程を理解しているか?規程が順守されているか?を“質問”して、監査対象に問題がないとの心証を形成して行くのが内部監査です。
内部監査は決して難しいものではありません。
内部監査の支援をしていると、
「うちの業務に精通していない外部の人間が監査なんてできるの?」
という指摘を頂くことがあります。
繰り返しになりますが、
内部監査は、業務の成果や効率性を保証するものではなく、
規程等の「整備」「運用」状況をチェックして、業務の準拠性を保証するものです。
この目的・ミッションであれば、外部の第三者でも内部監査を実行するこは充分可能ですし、監査の効率性や費用対効果の面から大きなメリットを享受することもできます。
内部監査を強化したいという会社は年々増加しています。
今回お話した点を踏まえて、内部監査の強化を考えてみてはどうでしょうか?
まとめ
監査とは? 内部監査とは何か?
★内部監査の仕事は、社内規程等の整備状況と運用状況をチェックすること!
内部統制の仕組みとしての内部監査
★内部監査における業務の有効性とは、“規程に従った仕事のやり方”という意味である!
陥りがちな内部監査の落し穴~よくある内部統制の誤解
■内部監査に業務知識は必要なのか?(業務に精通していないとダメか?)
監査対象となる部門や子会社の業務・業種に精通する必要はない。
■内部監査に専門知識は必要なのか?(専門知識がないどダメか?)
会計や労務、法務、IT等の深い専門知識を身につける必要はない。
★内部監査は、業務の有効性(効果や効率等)をチェックするものではない!
“正しい”内部監査実施のために~内部監査は難しくない!
“内部監査は難しい”、“相当な経験がないとできない”、“専門知識がないと無理”は、すべて誤解である。内部監査は決して難しいものではない。
★内部監査は、業務の成果や効率性を保証するものではなく、規程等の「整備」「運用」状況をチェックして、業務の準拠性を保証するものである。