2020年3月中旬頃から日本でも流行が始まった新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の影響で、日本企業の在り方が変わってきました。4月8日には日本全国で緊急事態宣言が発令され、5月25日に解除されたものの、終息の兆しはいまだに見えず、先行き不透明な状況が続いています。
そのような状況の中で、内部統制評価・内部監査の実務に携わる方はどのような課題を抱えているのでしょうか。今回は、弊社で実施した最近6か月のセミナーアンケートからお客様の声を集め、「上場会社」「非上場会社」「上場・非上場会社共通」といった切り口から、内部監査部門が抱える課題にフォーカスしてみたいと思います。
最近の内部監査部門をとりまく現状と課題
2020年3月頃から広まった新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響により、多くの企業はワークスタイルの変化を余儀なくされました。「時差通勤」や「出勤日の調整」、「在宅勤務」といったワークスタイルは、昨年まででは考えられなかった対策で、影響の大きさがよく分かります。現在は、在宅勤務を含む「テレワーク」に移行し、オフィスに出勤しない働き方も普及しています。今までは「オフィスで働く」が当たり前の考え方でしたが、もはや「オフィスで働かない」が主流になりつつあります。
このようなワークスタイルの変化は、新型コロナウイルスのパンデミックが原因となって加速しましたが、この対応は世界的に見ても一過性のものではなく、定着化していく傾向にあります。なぜなら、新型コロナウイルス自体が完全に収束していないということと、このようなパンデミックはコロナウイルス以外にも発生する可能性があるからです。
このような状況の中、内部監査部門が抱える課題も変化してきています。今まで当たり前のように行っていた『往査』が、外出自粛要請などに伴う出張制限で実施できなくなり、監査計画や監査手法の見直しが必要になりました。また、往査ができない状況で、内部監査や内部統制評価を手探りで進めた結果、遅れがでてしまった企業も少なくありません。
このように、テレワークが主体となる労働環境では、内部監査・内部統制評価もそれに合わせた対応が求められます。内部監査部門は、現地を訪問しない「リモート監査」への対応が求められています。
上場会社における内部監査部門の課題
上場会社における内部監査部門の課題としては、「海外」に関する悩みを挙げる企業が多いです。元々、海外について課題を抱える企業は多いのですが、同じ「海外」に関する悩みでも、このコロナ禍の中で悩みの種類が変わってきています。
■新型コロナウイルス発生前の課題
以前は、「海外の売上比率が高くなったのでJ-SOX評価の対象範囲に入るということから、海外の評価を進めなければならない」といった悩みが多く見受けられました。事実、弊社にも中国やマレーシア、シンガポール、ベトナムなどのアジア圏、アメリカ等での評価についての相談が多くありました。
それぞれ現地の言語や商習慣の問題で、「日本で行うようにうまく評価できない」「内部監査部門における財務報告、内部統制、内部統制評価に関する知識や海外における内部統制評価に関するノウハウが不足している中で、どのように評価を進めたらよいかわからない」といった悩みが多かったのです。
■新型コロナウイルス発生後の課題
コロナウイルスの影響が続く現在では、同じ「海外」に関する課題でも、「現地に訪問することがままならない前提で、どのように海外の対応をしていくか」といった点を悩んでいるケースが多いようです。
「現地訪問をしないでどのようにコミュニケーションをとっていくか、事例があれば知りたい」「Web会議システムを活用する際の注意点が知りたい」といった声を多く聞きます。
なお、コロナ禍における現在では、訪問をせずにどのように評価や往査を進めるかといった点の悩みは、国内拠点のJ-SOX評価・内部監査においても同様の声がみられています。
非上場会社における内部監査部門の課題
非上場会社の内部監査部門においては、新型コロナウイルス感染症の発生前後で課題や悩みに大きな変化はなく、「IPO」に関係する課題が大半を占めています。
IPOを検討している企業の多くは、2020年のオリンピックイヤーの上場を目指して進めていたケースが多く、しかしながら、コロナの影響によってスケジュールの変更を余儀なくされた非上場会社もあるようです。
非上場会社におけるIPOにかかる課題について、内部統制における課題と内部監査における課題に分けると、以下のようになります。
■内部統制評価に関する課題
・「J-SOX評価の構築が必要となったが、どう進めてよいかわからない」
・「J-SOX評価のスケジュール感がわからない」
・「3点セットの作成対象プロセスをどうすべきかわからない」
・「IT全般統制対象のシステムは、どこまでを範囲とすればよいかわからない」
■内部監査に関する課題
・「内部監査を一巡させる事を証券会社に求められているが、進め方がわからない」
・「内部監査のスケジュール感がわからない」
・「監査チェックリストは、一般的にどういう内容なのかがわからない」
・「内部監査をどこまでの粒度で進めればよいかわからない」
IPOを成功させるために、J-SOX構築・評価や内部監査をどのように進めればよいかわからず、悩んでいる企業は多いようです。IPOを目指す場合、内部統制は必須事項となりますが、準備には時間も労力もかかりますので、専任の担当者がいないと、構築を正しく行うことも、従業員にうまく周知して運用することも難しくなってしまいます。
また、上場までに内部統制評価と全ての拠点(全部門・全子会社)の監査を実施することが求められますが、企業によっては、「ぎりぎり上場をクリアできるレベルでよい」といった考えを持つ企業が存在するのも実状のようです。
しかしながら、断続的に発生する企業不祥事を見ても、内部統制強化はこれからも求められる重要な要素です。上場を機にしっかりとした内部統制体制の構築に取り組むことが望ましいと言えます。
上場・非上場共通の内部監査部門の課題
上場会社・非上場会社といった切り口で、内部監査部門の課題を見てきましたが、上場・非上場に関わらず内部監査部門共通の課題もあります。
①IT化(デジタル化)に伴う監査項目・監査手法の変化
コロナウイルスの影響もあり、各企業ではITの活用が加速しています。今まで郵送で対応していたものが、メールで済まされていたり、承認フローも電子承認が一気に普及しています。対面でやり取りをしていたことがWeb会議システムを活用するようになったり、RPAやAI-OCRといった新しいシステムを活用している企業も増えてきています。それに伴って様々な業務のフローが変わり、内部監査部門では、監査項目や監査手法の変更に迫られています。
②IT統制評価・情報システム監査のノウハウを持った人材の不足
今までも内部統制評価では、「IT統制評価を任せられる人がいない」、内部監査では、「情報システム監査のノウハウがない」などと、ITの部分の人材不足に悩みを抱える企業が多く見られましたが、IT化が加速している現在では、IT統制評価や情報システム監査を担う人材の不足が顕著となっており、この課題の解消が急務となっています。
③一人あたりに対する業務負担の増加
内部監査部門は、人数が少ない中で多くの業務を求められており、人の入れ替わりが多いという現実もあります。人の入れ替わりが多いからこそ、着任間もないという担当者の割合が多くなり、「内部統制構築・評価の進め方がわからない」といった声が継続的に多い傾向にあります。
上場会社・非上場会社が共通で抱える課題としては、上記の3つがあり、コロナウイルス環境下において新しく発生した課題①と、従来から継続して存在する課題②、③があります。
「上場会社」「非上場会社」「上場・非上場会社共通」の視点で内部監査部門が抱える課題を見てきましたが、コロナウイルス環境下において新しく認識された課題もあります。従来から抱える課題に加えて、コロナ禍における課題も検討・考慮して、今後の内部統制・内部監査を考えていく必要があるのではないでしょうか。
まとめ
■最近の内部監査部門をとりまく現状と課題
・新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響により企業の在り方が変わってきている。
・内部監査部門は、現地を訪問しない「リモート監査」への対応が求められている。
■上場会社における内部監査部門の課題
・上場会社の中では「海外」に関する課題が多くあった。
・コロナウイルスの影響が続く現在では、同じ「海外」に関する課題でも、「現地に訪問することがままならない前提で、どのように海外の対応をしていくか」といった点を悩んでいるケースが多い。
■非上場会社における内部監査部門の課題
・新型コロナウイルス感染症の発生前後で大きな変化はなく、「IPO」に関係する課題が大半を占めている。
・IPOを成功させるために、内部監査やJ-SOX構築・評価をどのように、どこまで進めればよいかがわからず、悩んでいる。
■上場・非上場共通の内部監査部門の課題
・上場会社・非上場会社が共通で抱える課題としては、「IT化(デジタル化)に伴う監査項目・監査手法の変化」「IT統制評価・情報システム監査のノウハウを持った人材の不足」「一人あたりに対する業務負担の増加」といったものがある。
・コロナウイルス環境下における新しい課題と過去から依然として存在する課題がある。