海外拠点に対する監査は、日本拠点の監査と同様、整備状況・周知状況・運用状況の観点からチェックすることになります。ただし、海外対応においては、不正対応、ルールの整備・周知、親会社への報告、内部通報制度等、海外特有の事情やリスクを加味した監査が必要になります。
海外拠点は物理的に距離が離れていることもあり、親会社から目が行き届きにくく、往査を通じて海外拠点の現状を確認することは重要となります。
一方、海外拠点の往査は国内拠点とは違い、移動にも大きく時間を費やし、時間と予算を使って対応するものになります。限られた時間の中で効率良く監査を実施するためには、事前に現地担当者とやり取りを重ね、綿密な往査スケジュールを用意し、時間を無駄にしないように配慮しなくてはなりません。
今回は、海外拠点の往査における進め方や監査のポイントについて、触れていきます。
海外拠点の監査でチェックすべきこと
海外拠点においては、ルールが不足しているケースが多いため、まずは規程類の有無から確認していきます。
また、労務管理・情報セキュリティが弱いケースも多く見受けられます。
さらに、不正等、海外拠点特有のリスクについてもチェックしていく必要があります。
監査計画を元にチェック項目を設定していくことになりますが、以下に海外拠点の監査におけるチェック内容の例を挙げてみたいと思います。
以下のようなチェック内容について、ヒアリングや資料の閲覧を通じ、整備状況・周知状況・運用状況の監査を行います。
◆海外拠点の監査における整備状況のチェック内容(例)
・海外子会社独自で行っている業務があるか
・親会社に対する報告の仕組みがあるか
・労働環境(雇用契約書・就業規則等)が整備されているか
・第三者による牽制機能があるか
・機密情報を適切に管理しているか
・BCP(事業継続計画)が策定されているか
◆海外拠点の監査における周知状況のチェック内容(例)
・情報の共有手段(イントラネット・IT端末等)が確立されているか
・親会社への報告・内部通報制度があるか
・勤務状況(労働時間、休暇申請等)を確認しているか
・コンプライアンス意識の啓蒙が行われているか
・機密データのIT管理(アクセス権等)が行われているか
・BCP(事業継続計画)が周知されているか
◆海外拠点の監査における運用状況のチェック内容(例)
・規程類に準拠して業務を実施しているか
・親会社への報告内容・タイミングは適切か
・証憑(注文書・契約書・稟議書等)の承認記録があるか
・担当者に依存している業務がないか
・情報管理(情報資産の持出管理等)が適切に運用されているか
・BCP(事業継続計画)の訓練が実施されているか
上記のチェック内容については、事前に海外拠点側と共有し、回答を得ておくことをお勧めします。回答を得ておくことで、事前に状況を把握することができ、往査を効率良く進めることができます。
海外拠点における往査スケジュール
海外拠点の往査を行う上で、訪問日程の調整は重要となります。
海外拠点の往査日数としては、移動時間も含め、1週間(5日間)とするケースが多いです。
飛行機の移動時間および、空港からオフィスへの移動時間、交通事情等を加味し、スケジュールを検討する必要があります。海外監査の場合、移動だけで1日かかるケースも多くあります。
そして、現地担当者の予定も考慮し、まずは往査のタイムスケジュールを決めておく必要があります。
ヒアリング対応者の割り当て、実地監査の実施、時間配分等について、往査実施前に、現地担当者と綿密に調整しておく必要があります。
往査の実施スケジュールとして、海外拠点訪問後の始めのタイミングで、現地拠点の責任者に対するヒアリングを行うことをお勧めします。
海外拠点の業務状況、体制、会社を取り巻く環境・リスク等、監査対象とする海外拠点の全体像を始めに把握し、徐々に詳細な事項の確認を行うことにより、監査を効率的に進めることができます。
海外拠点の責任者・担当者へのヒアリングの合間で、注文書・契約書・稟議書等の証憑類やオフィス・生産現場等の労働環境、機密文書の保管状況の確認といった、実地監査を進めることになります。
往査日程の中で、適時、海外拠点担当者とコミュニケーションを取り、現状や課題事項、改善案等について共有することをお勧めします。
コミュニケーションを取ることにより、海外拠点側に対し、監査内容や改善点の理解を深めることができ、監査に対する信頼感を得ることができます。
海外拠点の往査を行う上でのポイント
・海外拠点の成熟度に合わせた監査
成熟度(管理レベル)により、重点監査項目は変化します。
業務ルールが曖昧で規程や業務マニュアルが整備されていない海外拠点に対しては、規程の整備や統制の仕組みに関するコンサルティング(指導)が中心となります。
・外部専門家へのヒアリング
海外拠点と連携している弁護士や会計士に対しヒアリングを行うことで、海外拠点の現状や課題が明らかになることもあります。
また、現地の法制度対応についても確認することができます。
・親会社からのモニタリング
物理的に距離が離れており、グループの経営管理や会計方針等、適切に情報共有を行うことが難しく、情報共有が出来ていないことが原因となり、会計処理のミスが発生している事例もあります。
親会社からの連絡および、子会社からの報告等、親会社とのコミュニケーションについても、確認する必要があります。
海外拠点の監査は、情報が不足している中で往査を進めることも多くあります。
できるだけ多くの関係者から情報を集め、海外拠点の状況を把握することが必要になります。
国内拠点と異なり、管理レベルが低いケースも多くあるため、保証(アシュアランス)ではなく、改善指導(コンサルティング)が中心になることは留意してください。
海外拠点における往査は、海外特有のリスクや地理的な問題を加味し、進める必要があります。
できるだけ、現地担当者とコミュニケーションを取りながら事前に往査スケジュールを設定するとともに、往査の際も必要な情報を適宜収集しながら監査を進めることがポイントになります。
まとめ
海外拠点の監査でチェックすべきこと
☑日本拠点の監査と同様、整備状況・周知状況・運用状況の観点からチェックを行う。
☑監査ポイントについては、事前に海外拠点側に共有し、回答を得ておく。
☑労務管理・情報セキュリティ・不正等、海外特有のポイントを中心に監査を行う。
海外拠点における往査スケジュール
☑飛行機の移動時間および、空港からオフィスへの移動時間やルート、交通事情等を加味する。
☑ヒアリング対応者の割り当て、実地監査の実施、時間配分等について、現地担当者と事前に調整しておく。
☑海外拠点担当者とコミュニケーションを取り、現状や課題事項、改善案等について共有する。
海外拠点の往査実施におけるポイント
☑海外拠点と連携している弁護士や会計士に対してもヒアリングを行い、海外拠点の現状や課題を把握する。
☑親会社からの連絡および、子会社からの報告等、親会社とのコミュニケーションについても確認する。
☑管理レベルが低いケースもあり、保証(アシュアランス)ではなく、改善指導(コンサルティング)が中心になる。
海外拠点における予備調査・往査計画に関するポイントについて、以下にアップしております。こちらも併せてご確認ください。